2023-04-14
捜索実績

ココヘリ シーズン レポート2022年4~6月編

宮川 哲
編集者

山岳•アウトドア関連の出版社勤務を経て、フリーランスの編集者に。著書に『テントで山に登ってみよう』『ヤマケイ入門&ガイド テント山行』(ともに山と溪谷社)がある。

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目次

ココヘリ シーズンレポート 2022年4~6月編
~「家族の不安を取り除く」ことを意識していますか?

 4月から6月は、一般的には春から初夏にかけての季節です。花々が咲き誇り、新緑があふれ、山々がもっとも彩られる季節ともいえるでしょう。とはいえ、山の季節をひと括りに「春」や「初夏」としてしまうわけにはいきません。北海道と九州と、低山と高山では同じ月でも季節感はまったく別のもの。まだまだ冬の顔をしている山もあれば、雪解けが始まったばかりの残雪の山もある。でも、低山は淡い新芽のみどりに染まり、足元にはピンク色のカタクリの群生が......南北に広い日本の山。

 このシーズンの山歩きは、じつは簡単ではありません。残雪に埋まったルートを見つけ出すには? 岩と雪、氷がごちゃ混ぜになった登山道に必要な用具はなに? 三寒四温が繰り返されるこの季節のウェアリングはどうしよう??

 残念ながら、やはりこの季節にも事故は起こっています。いつどこで、どんな事案が発生しているのか。昨年の同シーズンに発生した遭難案件を検証します。

山を彩る春の妖精たち。カタクリの花は、早春の山のシンボルでもある 

1.データから見る遭難事案の傾向

 2022年4月から6月の3ヶ月間で、ココヘリへの通報があった件数は全16件。まずは、検証の元となる以下の各表、グラフをじっくりと見ていただければと思います。「通報者」がだれであったか。「通報の種類」は何であったか。また、通報案件の「パーティの人数」と、「事故の発生原因」「安否」についてなど、さまざまな視点からデータづくりをしてみました。

 ここに掲載した表、グラフは全部で6つ。内容は以下の通りです。

①発生域と日付(事案の発生した山域と日付を地図上に表示)

②通報者(ココヘリへ最初に通報した人が、遭難者とどんな関係にあるのかを示したもの)

③通報の種類(通報に至るおもな理由)

④パーティの人数(対象事案の入山時の人数)

⑤事故の発生原因(事故となってしまった原因)

⑥安否(事故の結果としての安否状況)

場所を問わずに発生する事案 

 これらのデータを元に、今回の事案内容を細かく確認してみましょう。①の「発生域と日付」を見てもわかるように、事案の発生は、 本州のみではありますが、東西を問わずに広い範囲で起きています。会津駒ヶ岳や焼額山、八ヶ岳などは4月も前半の事案であり、まだまだ雪も多く、登山にはむずかしい時期だったと思います。北・南・中央アルプスなどの高山はゴールデンウィークを過ぎてもなお、残雪期の真っ只中であり、相応の準備と技術が必要です。連休だけに多くの人が山に入りますが、やはりこの山域で事故は起こってしまっています。また、和歌山の紀見峠や広島の深入山のような身近な山でも、通報事案が発生しています。

   これらの事故の要因はどこにあるのでしょうか。ここで「事故」とい う言葉を使いましたが、正確にいうと、事故ではない案件も数多くあります。事故に至る手前で済んでいるものもありますし、そもそもが事故 ではなかった場合もあります。ではなぜ、数多くの通報があるのでしょ うか。

   上記のグラフは、あくまでもココヘリに通報のあった案件です。その 数が16件。ここで、②と③の円グラフを確認してみましょう。③は 「通報の種類」ということで、通報に至るまでのおもな理由を示してい ます。その中でいちばん大きな割合を占めているのが、「連絡不通」です。全体の63%にも達しています。また、「位置情報更新なし」が 6%。合わせるとほぼ70%となってしまいます。

   連絡不通とは「山に入っている本人への連絡ができない」という意味です。また、位置情報更新なしは、地図アプリなどで常に発信しているはずのGPS情報を、山に入っていない「待つ側の人たちが確認できな く」なってしまった。もう少し簡単に言い換えれば、スマートフォンの電波が途切れてしまった。電話が繋がらない。SNSが繋がらないということですね。

通報の多くは「家族」から 

 ここで、今度は②の「通報者」のグラフを確認すると、家族が56% を占めています。②と③のグラフを読み合わせると「ココヘリへの第一報通報者の多くは待つ側の家族であり、通報へと思い至る最大の理由が 連絡不通にある」という構図が見えてくると思います。山に入っている本人にすれば、電波が届かないエリアがあるのは「当たり前」 のことと思っているはずです。深い谷間の道を歩いていれば、当然、電話は圏外となっています。でも、待っている側にすれば、これだけ情報網の発達した現代において「電話が繋がらない場所がある」ということを直観的には捉えられないのだと思います。事前に「山だから電話が通じないこともあるよ」と、伝えられていたとしてもです。頭では分かっているつもりでも、長時間、電話が繋がらない状態となれば、何かがあったかもしれないと考えてしまう。家族の心情としては、そのほうが自然なのかもしれません。この不安は、待つ側にしかわからないものなのでしょう。

   また「位置情報更新なし」についても、もう少し詳しくみてみましょう。これは昨今、多く使われるようになった「みまもり機能」 に関係するものです。専用の地図アプリをスマートフォンにダウンロードしている登山者同士が山ですれ違うときに、それぞれのGPSの位置情報を送り合う機能のことです。また、その情報を待つ側も共有できるというものですが、注意点もあります。

 山での位置情報の交換は、電波のない山域や圏外エリアであっても、Bluetoothを利用すれば可能となります。ただし、その位置 情報はどちらかの登山者が通信圏内に入らない限り、大もとのサーバーへ転送することができません。待つ側はそのサーバーにアクセスすることで、対象者の位置情報を確認できるシステムとなっていますので、情報の更新には時間差が生まれてしまう場合があります。 この時間差が「位置情報更新なし」として、待つ側の不安を呼び起こしてしまった。この6%はそんな事案でした。

 アプリの「位置情報がわかる」という言葉だけがひとり歩きしてしまった可能性はありますが、これもやはり登る側と待つ側の認識のズレによるものと思われます。「山では電話が繋がらない場所もある」「GPSの位置情報には時間差が生まれる可能性もある」、このあたりの細部についても、登る側は待つ側へしっかりと伝えておくべきで、 これは、とても大切なことです。  

そもそも遭難案件ではなかった

 グラフの⑤事故の発生原因と⑥安否にある「下山遅れ」は、まさしくこうした待つ側の不安が現れた事案でした。もちろん、そもそもが遭難案件ではなかったのでよかったことではありますが、これは登る側と待つ側双方の連絡の 取り合いと意識の共有ができていれば、通報自体も避けられていたことでしょ う。

 さて、グラフ④のパーティの人数ですが、単独が81%と圧倒的です。ソロでの行動は、もはや時代の流れの中で当たり前のこととなってしまっています が、やはり大きな危険を伴う行為です。何かがあったときには、ひとりでは対処のしようがありません。複数人での行動は、それ自体がリスクヘッジとなります。この点はやはり登山者のベースとなる心構えとし て、肝に銘じておくべきでしょう。

⑤の事故の発生原因ですが、道迷いと滑落で4割となっています。どちらも遭難案件では常に上位を占める要因ですが、残雪の多いこの季節は、とくに道迷いに注意すべきです。春から初夏にかけてのこの時期は、ときに夏道が出ていたりもしますが、雪渓で途切れてしまっていることも多々あります。または、まったく道がないことだってあるでしょう。目印となる岩場のマークは雪に埋もれ、あるはずの道標も見当たらないこと も。残雪の山はルートファインディングにはとくに慎重にならざるを得ませんが、それでも、気づいたときには前後不覚に陥っている場合があるかもしれない。これがひとりでの行動であれば不安は増大し、リカバリーはなおさらむずかしくなってしまう。このリスクをどう捉えるべきか……。 

残雪期の山登りは、とくに道迷いに注意が必要に。夏道とは違うルートを歩くことも多 い。ルートファインディングは慎重に 

登山計画書を書くことで、登山の50%は成功している 

 ともすると、登山を計画した段階から失敗が始まっているのかもしれません。登る山のグレード、季節や天候、ルートの判断、装備、 計画変更時の連絡方法など、考えるべきことは本当にたくさんあります。この計画書をじっくりと練り上げることがいかに大事なこと なのか。「登山計画書を書くことで、登山の50%は成功している」とは、国際山岳ガイド・近藤謙司さんの言葉です。登山計画を書き上げることができれば、その山行の全体を俯瞰して把握できたことになります。そうすることで実際の現場でも、心にも余裕が持てるはず。このあたりの心得については、じつは、ココヘリ安全登山学校で編集をした教科書にも詳しく書かれています。ぜひ、そちらも参 照してください。

 もちろん、登山計画書は書いただけではいけません。関係機関への提出、ココヘリへの登録、そして待つ側、家族への共有を必ずし てください。いまさらではありますが、それが「もしものときの命綱」となります。

Chapter1 自己責任と危機管理 山を楽しむ、その心構え/自己責任について/危機管理の 考え方/リスクとは……ほか
Chapter2 行動への考え方 装備の選択について/休息のタイミングと意識すべきこと /水の摂り方/栄養の摂り方……ほか
Chapter3 山の体力とは 山で必要な体力とは?/トイレの工夫もストレスの軽減に /加齢をバックアップする……ほか
Chapter4 装備の話 バテない山歩きのためのテクニック/最初に装備を選ぶ際 は何を買う?/自分の命を守ってくれるアンダーウェアのこと……ほか
ココヘリ安全登山学校の教科書 体験版を読む

2.「通報」のその先にあるもの 

  今回のレポートでは、ココヘリの内側の話も少し紹介したいと思います。実際にココヘリへの通報があった場合には、内側のメンバー はどんな体制で事案に当たっているのか。捜索チームの発足、民間ヘリ、地元警察、消防との連携、そして通報者=家族とのやりとり など、実際に起こった事案を例に、そのやりとりを時間軸でまとめてみました。 

2022年4月12日(火) 福島県/会津駒ヶ岳

6:06 家族より入電  4/9入山-4/11下山の予定だが、戻らず
6:12 会員データべースより 会員IDほか会員情報を確認
6:13 compass、ココヘリの登山届確認ともに、届けなし
6:14 現地天候の確認
6:17 通報者に連絡  留守宅に登山計画書あり 福島県警にもオンラインで提出済み
6:33 登山計画書を入手
6:38 ココヘリ(民間ヘリ)出動調整・機体状況の確認
6:40 通報者より追加情報① 4/10 11:06に通過地点からの連絡あり追加情報をもとに捜索対象エリアを絞る
7:29
 ココヘリ(民間ヘリ)出動調整済 9:00以降の離陸可能を確認
7:34 警察と情報連携①
7:44 ココヘリ捜索メンバー東京ヘリポートへ向かう
7:45 警察と情報連携② ココヘリ(民間ヘリ)10:00に離陸、現場空域には11:15に到着
8:15
 通報者より追加情報② 予定ルートの赤線入り地図入手 捜索エリアの再確認
9:40 ココヘリ(民間ヘリ)離陸 県警ヘリ・防災ヘリ出動に備え、機体情報を県警へ連絡
11:12 ココヘリ(民間ヘリ)がサーチするも発見に至らず。空域を離脱
11:58 警察と情報共有。以降の捜索予定を確認
 ①12:00~13:00 県警ヘリがココヘリ受信機で捜索
 ②13:00~14:00 ココヘリ(民間ヘリ)が会津若松から飛んで捜索
 ③14:00~  再び、県警ヘリで捜索 以降、可能な限り交代で捜索
12:43
 捜索予定の変更
 ①12:00~13:30  県警ヘリがココヘリ受信機で捜索
 ②13:30~14:50  防災ヘリがココヘリ受信機で捜索
 ③15:00~16:30  ココヘリ(民間ヘリ)が会津若松から飛んで捜索
 ④16:30~ 日没まで 再び、県警ヘリ
12:57 県警ヘリ・防災ヘリ・ココヘリ(民間ヘリ)ヘリ相互通信のため 機体番号と無線周波数の確認・共有
13:40
 県警ヘリ・防災ヘリの結果をまたずにココヘリ(民間ヘリ)の離陸決定 14:30に離陸、15:00~現場空域周辺で旋回待機 警察と共有 
14:27 予定に変更あり ③の15:30~16:30までのココヘリ(民間ヘリ)の捜索時に、県警ヘリも 同時に現場に入る。現場空域周辺での待機旋回なし 無線周波数の相互確認。呼び掛けは「県警ヘリ」と「ココヘリ」
15:37
 ココヘリ(民間ヘリ)、県警ヘリとも反応なし 15:47 諸々の状況を想定し「ココヘリドローンサーチ山形チーム」に出動要請 現地に詳しい檜枝岐の山岳ガイドに同行依頼
16:28
 ココヘリ(民間ヘリ)発見に至らず。現場空域離脱
19:08
 ドローンサーチチーム2名、明朝9:00に現地捜索本部へ
19:32 通報者から連絡あり 本人よりLINEにて連絡あり。無事。 LINEの内容は「道まちがえたけど無事、車道まであと8km」ココヘリ担当者→通報者に警察へ連絡をするように依頼
19:41 ココヘリ担当者→通報者に本人への伝言を依頼。GPS座標が欲しい ココヘリ発信機電源ONの確認と、その場でのビバーク ドローンサーチチームへ出動の中止連絡
19:46 発見(本人通報地点)エリアの検証 捜索対象エリアから20kmは離れていた 山スキーのため、時間当たりの移動距離が長い
20:35
 通報者から連絡あり 本人より「今日はここでテントを張る。明日、自力で下りる」とのこと ココヘリ担当者→通報者を通じ「警察地上隊に合流してください」 と伝達を依頼
20:48 警察地上隊は明日、林道を徒歩で進み、途中で合流の予定
22:03 通報者から連絡あり 警察地上隊が車輌で林道に入り、本人を無事救助とのこと 本件、クローズ。各方面情報共有 

  上のタイムラインは、2022年4月12日にココヘリへ通報のあった会津駒ヶ岳エリアでの遭難事案の詳細です。遭難者は単独で入山。 下山予定日を過ぎても帰宅せず、連絡不通となったことから、家族が一報を入れたという流れです。最初の電話があったのは、朝の6時 6分。ここから事案解決の22時3分まで、およそ16時間にわたったやりとりの一部始終です。

   入電とともに、ココヘリでは捜索チームが活動を開始します。事案内容が確認でき次第、次にやるべきは登山届の提出有無をチェックすること。登山届が出ていれば、その内容に沿って捜索エリアの検証に入ります。同時進行で、地元警察への通報の有無の確認、そ の後、連携を図りつつ、民間ヘリの要請を行なっています。入電からヘリの要請までは、およそ32分。その後、捜索メンバーは該当す るヘリポートへ移動し、もろもろの手配を進めます。

連携するココヘリの捜索チーム 

 事案が起こった際には、日本各地にいるココヘリの捜索協力者への連絡が瞬時に行なわれ、そのエリアの警察・防災との連携も図られるようになっています。また、通報者との連絡を担当するメンバーもおり、情報の聞き出し、状況の説明、または相談なども継続。 いっぽうで捜索チームの方は、状況の変化を予測しながら捜索計画を立てていきます。その計画に沿って、県警ヘリ、防災ヘリ、民間ヘ リ、または地上部隊などが効率よく、ココヘリ電波のサーチを繰り返す……そんな仕組みで捜索は進行します。

   地上部隊とは、まさしく地上から捜索にあたるチームのことですが、この会津駒ヶ岳の案件では、地元の檜枝岐のガイドといっしょ に、ココヘリドローン捜索チームの石沢孝浩さんが捜索に参加する準備を進めていました。15時47分にある『「ココヘリドローンサー チ山形チーム」に出動要請』にある通りなのですが、地上チームはドローンを活用して、要救助者の位置特定のサーチをする予定でし た。このときも幾度にもおよぶヘリでのサーチにも反応はなく、翌朝からの地上部隊の編成がされ、石沢さんはまさしくその準備に追 われていました。

 その準備の只中にあった19時32分に、「本人よりLINEにて連絡あり。無事」の一報が入りました。このときの捜索メンバーの安堵 は、言葉にできないほどでした。捜索という緊張感の連続の中で、誰もが待ち望んでいた一報。結果的には捜索エリアから20kmも離れ た場所からの連絡で、要救助者は遭難時からスキーで移動を続けていたようでした。結局、ココヘリによる位置特定には至りませんで したが、この連絡のあった2時間半後には、車輌で林道に入っ た警察が対象者を無事に保護し、最悪の事態は免れることが できました。

 じつに多くのメンバーが動き、各関係機関との連携が図られた16時間でした。「通報」のその先にあるもの、その一端 でも共有してもらえればと思います。遭難という事態がいか に大事に至るのかを肝に銘じ、自分の山歩きを今一度、思い 返す機会としてください。ココヘリは山での遭難者を早期発見するサービスではありますが、そもそも遭難を起こさない にことに越したことはありません。 

この季節の山歩きは注意に注意を重ねても、ルートを見失ってしまうこ ともある。夕暮れに迫る時刻になる前に、必ず下山できるように心掛けたい 

3.システムを支える側の思い 

  会津駒ヶ岳の一件でもココヘリドローン捜索チームのメンバーとして、地上部隊を準備していた石沢孝浩さんにも話を聞いてみまし た。石沢さんは、月山や湯殿山エリアを中心に活動を続けるガイドカンパニーIDEHAの代表でもあります。IDEHAの名前の由来は「い では」で、漢字で書けば「出羽」となります。彼は日本山岳ガイド協会の認定ガイド(山岳ガイドステージⅠ)でもあります。そのほ かにも、日本テレマーススキー協会の公認指導員だったり、上級救命技能の資格など、さまざまな技能をお持ちです。また、みなさんも 手にしたことがあるかもしれませんが、昭文社の『山と高原地図』の 「蔵王」を担当しており、調査執筆も手掛けています。

 その石沢さんはココヘリとも連携して、おもに東北や北関東エリア での捜索チームの一員として活動しています。とくにドローンの操作にも長けていて、ドローンにココヘリの受信機を積み込み、実際の捜 索にもあたっています。まずは、4月12日の会津駒ヶ岳のときの状況を伺ってみたいと思います。 

IDEHAの石沢孝浩さん。ココヘリドローン捜索チームの一員で、おもに東北や北関 東エリアを担当している 

地元ガイドからのエリア状況の聞き取り 

  あのときは最初、電話のオペレーターとして対応をしていました。会津駒ヶ岳で単独のスキーヤーが帰ってこないと家族からの連絡 でしたね。通報者との連絡を密にしつつも、同時にそのエリアのこの季節の情報を集め始めました。会津駒も同じ東北で近くはあるの ですが私は山形がベースなので、そこまで細かなことはわからない。そこで、東北山岳ガイド協会の仲間でもある会津のガイドに電話 をして、そのエリアの特徴だったり、雪の状況、迷いやすいポイントなどを教えてもらっていました。そんな情報を共有しながら、どのようなかたちで山にアプローチしていくべきかを事前に打ち合わせをしています。そうして、ドローンを準備して、いざ、出掛けよう としていたタイミングで、本人から連絡があったとの情報が入りました。出発直前ではありましたが、結果的には出動せずに済んだ、 そんな案件でした。

   このときは火曜日でしたが、通報が多いのは日曜日の夜とか月曜日の午前中ですよね。土日で山に出掛けていて、日曜日の夕方に戻ってこないというパターンです。なのでいつもはそれに備えて、日曜の午後と月曜日のスケジュールをなるべく空けるようにはしています。とはいえ、当然ながら捜索の依頼というのは、曜日が決まっているわけでもありませんよね。そんなわけで、いつでも動けるよ うな心構えはしています。どうしても動けないようなときは、メンバー同士で融通を利かせています。捜索はひとりでするものではない ので、ココヘリのメンバーと連携をしながら動かしていくのですが、お互いに対応を引き継いで切れ目のないようなかたちにすることが 大切ですね。やっぱり、人の命がかかっていますので。  

ヘリが飛ばせないような天候でも、ドローンであれば飛ばせる瞬間もある。捜索という意味 では、とても有効な手段となる 

ドローン捜索の役割 

  実際に案件が起こった場合、通報者、または要救助者と警察と情報を交換 しあって、どういうふうに捜索を進めていくかというのを決めていくわけですが、われわれはあくまでも警察のサポートであり、前に出ることはありません。警察でヘリを飛ばせればそれが優先で、どうしても警察のヘリが出せない場合など状況次第ではありますが、ココヘリのヘリやド ローンチームが捜索の一端を担います。でも、悪天候の場合などヘリでの捜索がむずかしい場合は、やはりドローンはとても有効な手段 です。いくら雨が降っていても、ちょっとした晴れ間が出れば、ドローンを上げることは可能です。地上を歩いての捜索の場合は、受信 機の信号はなかなか遠くまで届きません。でも、ドローンなら上空から高度を上げて取れるので、受信の可能性は大いに上がってきま す。物理的には視認できる範囲であれば、飛ばせます。いろいろな意味で、やはりドローンが持つ役割は大きいと思っています。

   でも、いちばん大事なのは捜索をしないで済むこと。つまり、事故を起こさないことですよね。もしも事故を起こしてしまったとしても、生きて戻るためには情報の共有がポイントとなってきます。登山届はとても大切。どの山に入るのか、どのルートをたどるの か……。家族にしっかりと伝えていくのが重要なんだと思います。登山届けをWEBで出したり、紙面で警察や入山口に出していくのも意味はありますが、家族にも同じものを手渡ししてください。これをやっておくだけで、自分の命が助かる可能性が大きくなりますの で。 

4.家族の不安を取り除く努力をして欲しい。 

  ここまでデータや事例も含め、さまざまな視点から4~6月のシーズンを振り返ってきましたが、今回、強く意識して欲しいと思うポ イントは「家族の不安を取り除く」こと。通報者の第一が家族であったり、音信不通が通報の起因となっていたり、これは、登る側と待つ側=家族との意識の違いから生じている事案ともいえるでしょう。登山者としては当然の「常識」も、山に登ったことのない人に は「常識ではない」であることも多いはず。その双方の意識の違いに思いを馳せることができれば、必要のない不安や通報は減らしていくことができるのではないでしょうか。先にも書いていますが、今一度、このあたりの課題を整理したいと思います。

・山では電話が繋がらない、繋がりにくいことがある。

・地図アプリの位置情報は、リアルタイムでない場合もある。

・登山計画書はわかりやすく、(山をやらない家族にも)理解できるものに。

・やむを得ず計画外の行動をする場合でも、連絡をする努力は必要。

・登山届にはココヘリのIDを記入して欲しい。

・行動計画には予備日を設け、余裕のある時間設定を。

・単独での行動はなるべく避ける。 

 おそらく、このあたりの意識の共有が、いちばん大切なのだと思います。ただ単に「山に行ってきます!」ではなく、「○○山の○○ ルートを……」と、細かな説明を加えていく。その言葉のていねいさが、双方の不安を取り除くことに繋がっていくはずです。しっか りとした登山計画を練って、季節に応じた相応の装備を揃え、安心安全を心掛ける。その心構えを持って、この季節も存分に山を楽しんでください! 

登山届・登山計画は必ず提出。そして、共有を!!

ココヘリのHP内にも フォーマットがある。また、ヤマレコやYAMAPで準備した登山計画を共有することもできるようになっている。 

ココヘリ登山計画

5.遭難のリスクを減らすために学び、備える

ココヘリ安全登山学校のご案内 

  ココヘリ安全登山学校は、会員限定の学びの場です。第一線で活躍する山岳ガイドから、正しい技術を習得していただくための講習 を、WEB・実地の場で定期的に開催しています。「WEB講習会で得た知識を、現場で繰り返して体験して身につける」……この流れが とても大切。WEBによるオンライン講習では知識を、実地講習では経験則を、バランスよく身に付けることのできるカリキュラムと なっていますので、ぜひご活用ください。

これまでのココヘリ安全登山学校の様子は、以下のレポートをご参照ください。 

第4回 ココヘリ安全登山学校 in 北横岳「雪山クラスⅠ~入門編~」 

WEB講習会 講師:国際山岳ガイド 天野和明 

実地講習 in 北横岳 講師:国際山岳ガイド 近藤謙司

WEB講座

長野県北横岳での実地の様子

第3回 ココヘリ安全登山学校「安全対策クラスⅡ & 技術Ⅰ」 

WEB講習会&実地講習 in 北横岳 講師:国際山岳ガイド 天野和明 

WEB講座

山梨県北横岳での実地の様子

今シーズンに開催予定のココヘリ安全登山学校

ココヘリ安全登山学校2023
安全対策Ⅰ 〜夏の気象と防水対策〜

講師:猪熊 隆之さん

WEB講習:5月10日(水)予定

実技講習:WEB講習ご案内時に告知予定

登山技術Ⅱ/安全対策Ⅱ 〜ブライトホルンからのライブ予定〜

講師:近藤 謙司さん

WEB講習:7月5日(水)予定  

どちらの講習も、募集開始前に会員の皆様へメールでご案内を差し上げます。

ココヘリ シーズンレポート 2022年4~6月編
~「家族の不安を取り除く」ことを意識していますか?

文・写真=宮川 哲

過去のシーズンレポートはこちらから

ココヘリ シーズン レポート冬編 2022
-2021年〜2022年の冬山シーズン遭難事案-

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