2023-02-10
安全登山学校

第4回 ココヘリ安全登山学校 in 北横岳

ココヘリ安全登山学校「雪山クラスⅠ~入門編~」を長野県・北横岳(きたよこだけ/2,472m)で行いました。

宮川 哲
編集者

山岳•アウトドア関連の出版社勤務を経て、フリーランスの編集者に。著書に『テントで山に登ってみよう』『ヤマケイ入門&ガイド テント山行』(ともに山と溪谷社)がある。

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目次

「雪山クラスⅠ~入門編~」

北横岳にて。みなさん笑顔ですが、山頂はとびきりの寒さです!

今回の講習テーマは雪山の入門編です。

 山頂からは南アルプスも北アルプスもぐるりと見渡すことができ、目の前には、蓼科山が大きく聳える北横岳。はじめての雪山、アイゼン歩行、ピッケルの使い方を学ぶには最適です。WEB講習で学んだことを実技講習でさらに深く学びます。

 茅野駅に集合して専用のバスに乗り込みます。バスの中で早速近藤さんの講義が始まります。登山者の心得として・・・「電車やバスなどの公共機関では、バックパックにピッケルやストックをつけたままにしないこと。」これは、ヨーロッパでは当たり前のルールであり、ピッケルやストックなどの危ないものはバックパックから外して手に持った状態で移動する、カバーがしてあればOKという考えではなく、そもそものリスクを取り去っておく。この考え方は山登りの基本です。ココヘリ会員さんにはそうあってほしい。と、いかにも近藤さんらしい、講義のスタートです。

中央:近藤謙司(こんどう・けんじ)1962年、東京生まれ。IFMGA認定・国際山岳ガイド。

 七大陸最高峰への登頂のほか、ヒマラヤ、ヨーロッパでも数々の登攀歴を持つ。チョモランマ冬季北壁最高地点(8,450m)到達は、いまなお世界記録。エベレストの公募登山隊を組織し、数々の登山者を山頂へと導く。エベレスト登頂は7回、マッターホルンは80回以上。現在、日本山岳ガイド協会の国際委員長ほか、山の日アンバサダーも務めている。

北八ヶ岳ロープウェイの山麓駅

  北八ヶ岳ロープウェイの山麓駅で身支度を整えてから、ロープウェイの乗車列に並びます。快晴ですがすでに-7℃。おそらく山の上は-10℃、山頂は-15℃くらいにはなっていそうです。山頂駅を降りれば、そこは標高2,237mの大雪原。

1月末の快晴の日曜日。雪山に期待を膨らませロープウェイに乗り込みます。

山頂駅を降りたところで講習が始まりました。

  「ココヘリ安全登山学校は、その名の通り学校なので、登頂が目的ではなく学ぶことが目的です。」と、山頂駅付近の登山道脇の雪原で、近藤さんを囲んでの講習会が始まりました。

実技講習のフィールドは北横岳です。雪一色の世界!
ロープウェイを降りた山頂駅の景色。今日は何よりの登山日和です!

まずは【ビーコンについて】

 今日は入門編。ビーコンがどんなものなのかを知ってもらいたい。ビーコンは、脱ぎ着するジャケットのポケットなどにいれず、脱いでしまうことのない身体に近いところにストラップでしっかりと装着しましょう。まずは「SEND」=「送信」のシグナルを発信してみましょう。雪原にピピピピ、ピィーピィーとビーコン音が鳴り響きます。続いては、SENDを「SEARCH」=「受信」に切り替えます。

 近藤さんはビーコンの仕組み、電波がどんなかたちをつくって飛んでいるか、ビーコンを使う状況に陥ったときはどう対処していくのかを、身振り手振りを添えて説明しています。「ビーコンについて今は最低限だけ。装着する位置と、SENDとSEARCHへのスイッチの切り換え方。“もしもの時SEARCHに切り替える”、まずはそれだけできればOK。できないと探し始めることができないので、まずはこれをできるようになって。ビーコンについては2・3時間みっちり学べる機会を積極的につくって欲しい。」

ビーコン講座:近藤さんを囲んでの信号をチェック。

次は【歩き方の基本】

 登り・下りでの足の運び方は、平地とは違っていること。アイゼンを付けたときの細かなステップを実演してくれます。基本はフラットフィッティング。靴底の全面をなるべく平らにして、雪面に置く。下りのときに怖がって横向きに置いてしまうと、足首を安定させられずに転倒してしまうことも。理由も丁寧に解説する中で、フレンチポインティング、アメリカンステップ、モノレール歩き、モデル歩き、と聞きなれない言葉も次々と出てきます。リスクヘッジのためには転ばないこと。転ばないためには、歩き方を学ぶことが何よりも大切。“靴底をフラット”にを常に意識しましょう。踵からつくと転倒のリスクが生まれてしまうので要注意です。

「アイゼンを着けると簡単に歩けてしまうことがあります。……でも、それは歩けてしまっただけ。歩き方の基本がしっかりとできていれば、ある程度の斜面ではアイゼンがなくても歩くことができます。それくらいしっかりとした『歩きの基本』をマスターして欲しい。鬼に金棒って言葉がありますよね。鬼にアイゼンです。ちゃんと鬼になってから、アイゼンを履いてください。上手な足運びができてこそのアイゼンです!」というわけでまだここではアイゼンは履かずに最初は歩きます。

下りのときは目線から足場が遠いから怖く感じる。だから身体を屈めて地面を近くすると次の一歩が出やすくなる

続いては【ピッケルについて】

 各部位の呼び方から適正な長さ、持ち方などピッケルひとつにも知っておくべきことは沢山あります。

ピッケルには、ストレートタイプとベントタイプがあります。

アルペン挿し!

 色々な説明があった中でも、受講者のみなさんの目が釘付けになっていたのは、「アルペン挿し」の実演のとき。ピッケルをバックパックのショルダーストラップから挿し込み、クルッと回して背中側にピタリと収納してしまう。それも一瞬のことで、なにやらマジックを見ているよう。岩場での歩行だったり、ロープを使っている場面だったり、その場の状況により両手を空けたいときなどによく使う技だといいます。アルペン挿し、またの名を「忍者挿し」とも言うようですが、これぞ近藤流の、国際山岳ガイドならではの教え。いかに素早く無駄なく動くことができるかの技をたくさん伝授していただきます。

アルペン挿し。写真左上から時計回りに。これで、両手はフリーになり素早く動けます。

みっちり講義を受けていざ出発。

 ここから先はABCの3班に分けて出発です。どの班も近藤さんから直接話を聞けるようにポイントごとに入れ替えながら講習は続きました。まずはアイゼンなしで、先ほど学んだことを思い出しながら、フルフラット、フルフラットと意識をしつつ、地形に合わせての足運び練習です。体が覚えて考えなくても自然に足が出るようになるまで練習あるのみです。

まずは、アイゼンなしでフラットフィッティングの基本を実践。
急な登りは、フレンチポインティングで登ります。

雪山ではどんなときも素手になるリスクは避けるべき

 ルートは、坪庭から北側の樹林帯へと続きます。少し斜面が急なところは、近藤さん曰く、「欽ちゃん歩き」。世代がばれてしまいますが、クスッと笑っている人もいない人も……。30分ほど登ったところでついにアイゼンを装着。アイゼンは入山の前、準備の段階で靴のサイズに合わせてセッティングしておくこと。これはとても大切なポイントです。「アイゼン装着時ぜったいに素手にはならないでくださいね。必ずグローブで作業をすること。アイゼンのストラップもグローブをしたままでしっかりと結ぶ。雪山ではどんなときも素手になるリスクは避けるべきです。」とここでも講習です。

  ここで驚いたのは、近藤さんのアイゼンの履き方。ものの数秒で装着できるスペシャルな方法を披露してくれました。事前にアイゼンの足を入れる部分をはじめから「輪」の状態にしておく。そうすれば手袋をつけたままでも着脱できるそうです。この方法を使うにはストラップが長い必要があるので山のショップなどで「ストラップ、長いから切ってしまいましょう」といわれても切らないで!とのことでした。「おお!この方法だと手袋をつけたままでも着脱がスムーズだ!」と声が上がっていました。

参加者全員のアイゼンの装着具合のチェック。皆さんちゃんと履けましたか~

アイゼンを履くと歩く感覚が変わってきます。

 アイゼンを履くと爪を引っ掛けないようにと、足運びも慎重になります。初めのうちはその慎重さは大切で、ていねいな足運びをすることを心掛けましょう。こぶし一個分の足幅で、しっかりと膝を上げて常にフラットに足を置く。この繰り返しが、鬼への近道なのかもしれません。

アイゼンの効き具合を確認しながら一歩一歩を大事に。

山頂へ

北横岳は三角点のある南峰と、標高は8mほど高いけれど三角点はない北峰の双耳峰です。ここでも近藤さんの講義は続きます。風の強かった南峰から双耳峰の稜線を北峰へ。ほんの少し進んだだけで、風は微風に変わります。この風についても、とくに雪山では意識をしておかなければならない要素となります。北横岳の冬のリスクは、地形的には雪崩の危険は少ないとはいえ八ヶ岳特有の低温と風には要注意。「風はどこから吹いてくるのかを、どうやって知るべきか。」

三ツ岳はハードな岩稜帯なので、ルートを左に取ります。初心者は近寄るべからず。
北横岳ヒュッテ前でトイレ休憩。北横岳ヒュッテから20分も登れば、北横岳南峰の頂に。山頂からは、南八ヶ岳も蓼科も南アルプスだって目の前です!

さて、問題です。

 下の写真を見て、風がどちらから吹いているかがわかりますか? 

・・・答えは、写真の左から。空気中に漂う水蒸気や氷の粒が、風上側へとどんどん成長していきます。そうすると、写真のようにエビの尻尾のような、造形が生まれます。「目の前にある木を見てください。エビの尻尾が成長していますよね。これによって、風がどっちから吹く傾向があるのかがわかります。風上と風下が変わるようになれば、あとは地形を考えながら行動をする。たとえば、いまここでどちらかの斜面を下りなければならなかった場合は、どうすべきか。風上側の斜面は常に風に押されているので、雪面は風下側に比べて締まっている可能性がある。風下側には雪庇ができているかもしれないし、斜面は緩くなっているかも。とすれば、風は強かったとしても、下りるべきは風上側なのかもしれない……とそんなことも考えてみる。」と、山で実際に得た情報からリスクを考える方法を教えてもらいました。

3班すべて到着。

 雪山に入るとは、どういうことなのか。その心得を、近藤さんは講義の随所に詰め込みながらのこの実技講習でした。これが「ココヘリ安全登山学校」です。歩き方の基本、ピッケルの使い方、アイゼンの履き方、ビーコンとは、リスクについてなど、一回の講習会では覚えきれないほど学び、この一日でみなさんのアイゼン運びもスムーズになりました。雪山に慣れるには、やはり登る機会を増やして経験値を上げていくこと。この登山学校がそのきっかけとなればと願っています。

3班とも無事到着!

登山学校参加者の声

 登山学校参加の動機と、実技講習の感想を参加者に伺いました。 

 1年半前から登山をはじめて、この冬初めての雪山でした。まったく経験がないので、アイゼンやピッケルの使い方とか、雪山にどういうリスクがあるかを知り、「知らないこと」による事故を防ぎたいなと思って参加しました。実際に参加してみると、本当に知らないことばかりでした。自分では知っていたつもりでも、まったく知らないことばかりで、本当に「1」から学ばせていただいて、これからの雪山の役に立つと思っています。とても、ためになりました。今後は、日本の百名山を登って、モンブラン、アコンカグア、そして南極に行くことです!

 私は本格的にバックカントリーをやりたいと思っています。バックカントリーをするために、雪山の知識をつけたいと思っていたので、今回の登山学校に参加しようと思いました。色々学んで、一日があっという間でした。1日では足りないので、今度は1泊2日の泊りで長時間いろいろとお話を聞いたりもしたいので、また次もぜひ参加したいと思います。これから初心者向けのバックカントリーのツアーに参加してみます。もっと上手くなって、、立山とか白馬でのバックカントリーが夢です。

 雪山は、はじめてではないのですが、自分の技術の確認とスキルアップのために参加しました。参加してみて、知っていることもあったし、知らないこともありました。たとえば、風の向きだったり木の話だったりと登りながらいろいろなことを学べたので、とても有意義でした。これからも、ココヘリのお世話にならないように、バックアップとして持っていられるように。念には念を入れて“安全第一”で山へ行きたいなと思っています。

過去の【WEB講習】は会員マイページよりご覧いただけます。

ココヘリマイページ>


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