13(トザン)日は【AJ MALLの日】特集|安全登山のための服装術
本好きが高じて企画・編集会社に勤務し、アウトドアをはじめとす る趣味の雑誌編集に関わったのちに独立。思う存分スキーを楽しむ ために夏に頑張るアリンコ系ライター・編集者。インタビューや道 具の紹介、解説記事が得意分野。
記事一覧登山とは、自分の足で山を歩くこと。体や装備の重さを支え、地面と直接コンタクトする登山靴は、とても重要な道具です。
登山靴は最初に揃える道具のひとつですが、もっとも基本的な道具であるにも関わらず、選ぶのは簡単ではありません。登山用品店で壁一面に並ぶ登山靴を見て尻込みしてしまった、という人もいるのではないでしょうか。
登山靴選びはなぜ難しいのか。理由はふたつあります。ひとつは、お店に並んでいる靴が歩く場所や使い方を想定してデザインされているにも関わらず、とくに初心者にはその違いがわかりにくいことです。
登山靴の役割は足を守り、歩行を助けることです。キレイに舗装された街中の道路と違い、登山道はさまざまな表情をもっています。歩きやすい土の道もあればゴツゴツした岩場もあり、雨が降ればぬかるんだり、滑りやすくなったりします。また、テント泊登山のように、背負う装備が重くなるほど歩きにくくもなります。足を守り、歩行を助けるという本質は変わりませんが、使用する場所や使い方に合わせてデザインは変わります。
登山靴選びが難しいもうひとつの理由は、素材や機能だけを見て選べないことです。どんなに高価な素材を使っていても、どんなに革新的な機能を備えていても、そしてどんなに好みのデザインでも、自分の足に合っていない靴はトラブルの元です。ウエアと同じように、登山靴も試着が必須の道具です。
今回は春から秋の無雪期に適した登山靴を紹介します。登山靴は、形状によってハイカット、ミッドカット、ローカットの3種類に大別できます。それぞれの特徴を理解することで、数ある登山靴のなかから自分のスタイルに合った一足を見つけられます。
登山靴と聞いて、多くの人が最初に思い浮かべるのがハイカットの靴ではないでしょうか。ハイカットの登山靴の最大の特徴は足を支え、守る性能、すなわちサポート性と安定性、プロテクション性に優れていることです。
ひとくちにハイカットといってもさまざまで、岩稜帯のような足場の悪いところを歩いたり、テント泊のような重装備を担いで縦走したりする中上級者向けのモデルがある一方で、不整地に慣れておらず、靴のサポートがほしいという初心者向けのモデルもあります。
足場が悪い場所や重たい装備を背負っていると体は不安定になります。歩いていて姿勢が崩れても体は自然にバランスを取ってくれますが、無意識のこの補正動作は、知らず知らずのうちに疲労を蓄積させてしまいます。このとき足首まで覆って足元を支えてくれるハイカットの登山靴を履いていれば、靴に頼れるぶん体は楽できます。疲労の軽減が安全な登山に繋がることはいうまでもありません。
足の上部を覆うアッパーは、長らく堅牢性や耐久性に優れるレザーが主流でしたが、近年は化学繊維や樹脂パーツとのコンビネーションが増えました。たとえば足首部分に柔らかい素材を配することで、十分な剛性を確保しながら足首の屈曲も妨げないようなつくりも可能になっています。岩などにぶつけても足を痛めないように周囲をラバーで覆ったモデルが多く、また、ほとんどのモデルはゴアテックスなどの防水透湿素材を採用しており、高い防水性も備えています。
足元の安定感を大きく左右するのがソールユニットです。ハイカットの登山靴の中でも、とくに岩場を想定したモデルは硬いソールを備えています。硬いソールは簡単に曲がったりねじれたりしないため、岩の出っ張りにつま先で立ち込むような場面でも頼りになります。ただし、曲がりにくいソールはフラットな登山道を歩くのは苦手です。
多くのメーカーのフラッグシップは、技術の粋を集めたハイカットのモデルです。しかし、高機能な靴がどんな場面でも優れている訳ではありません。メーカーの想定を外れるところでは、必ずしも快適ではないということは覚えておきましょう。ハイカットの堅牢な靴は不整地でも安心して歩けますが、構造上重くなりやすく、また柔軟性に欠けるため歩きやすいとは言えません。この真逆にあるローカットの靴は、サポート性こそ劣りますが軽くて歩きやすく、整備された登山道を行くときや荷物が軽いときは断然快適です。何事も適材適所です。
山の道具はどんどん軽くなっています。山道具の進化の歴史は、軽量化の歴史と言っても過言ではありません。近年では軽量化を極めて体への負担を減らす「ウルトラライト」や、登山道を走る「トレイルランニング」、装備を軽量化してスピーディに山を歩く「ファストパッキング」のようなスタイルも認知されてきました。こうした流れに呼応するように増えているのがローカットの登山靴です。
ローカットの登山靴には、古くからアプローチシューズというものがあります。これはもともとはクライマーが岩場にアプローチするために作られた靴で、登山道を外れてガレ場や岩場を歩くために安定感のある固めのソールを備えています。
形は同じくローカットでも、まったく違う出自をもつのがトレイルランニングシューズ(以下トレランシューズ)です。ランニングシューズから進化したトレイルを走るための靴は、不整地での安定感と同時に屈曲性やクッション性も重視していて、ロードランニングで人気の分厚いソールをもつトレランシューズも登場しています。
アプローチシューズとトレランシューズはもともと違う目的を持っていましたが、フィールドによっては両者がクロスオーバーする部分もあり、双方の利点を兼ね備えるようなモデルも出てきています。
重装備でも歩きやすいローカットを選ぶベテランは古くからいましたが、装備全体の軽量化が進んでいる現在は、テント泊でも積極的にローカットを選ぶ人が増えています。相応の脚力は必要ですが、足元が軽くなれば歩行は快適になるのはいうまでもありません。
ミッドカットの登山靴は、ハイカットとローカットの「いいとこ取り」を狙ったモデルです。歩きやすさはスポイルせずに、ほどよいサポート性を備えているのが特徴です。
ハイカットの硬い靴は慣れないうちは歩きにくいものです。また、ある程度の体力や運動経験がある人が整備された登山道を歩く場合、足首まで覆うハイカットのサポートは過剰であることが少なくありません。日帰りの低山から徐々にステップアップしようと考えている登山入門者や、サポート性はほどほどで歩きやすい靴がほしいというベテランにとって、ミッドカットの登山靴は有力な候補となります。歩きやすいモデルが多いので、登山だけでなく旅行や日常生活まで幅広く使えるのもいいところです。
市場にある登山靴を大きく3つに分けて、その特徴を説明しました。繰り返しになりますが、カタチは変われど、登山靴の本質は足を守り、歩行を助けることにあります。どんな靴を選ぶかは、目的山や行程、どんなスタイルで歩くか、また、歩く人の経験値や体力によっても変わります。一足ですべてをこなせれば理想的ですが、多くの人が、登山経験が増えるにつれて複数の登山靴を使い分けるようになっていきます。
靴選びで迷ったら、自分が歩こうとしている山をできるだけ詳細にイメージしてみましょう。そうして「この靴で歩けるだろうか」と自分に問いかけてみれば、きっと答えが見えてくるはずです。
(文=伊藤俊明 写真=岡野朋之)
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