13(トザン)日は【AJ MALLの日】特集|安全登山のための道具術
本好きが高じて企画・編集会社に勤務し、アウトドアをはじめとす る趣味の雑誌編集に関わったのちに独立。思う存分スキーを楽しむ ために夏に頑張るアリンコ系ライター・編集者。インタビューや道 具の紹介、解説記事が得意分野。
記事一覧山の時間を豊かにしてくれる道具があります。ストーブ(コンロ)とクッカーもそのひとつ。登山靴やレインウェアのような必需品ではないかもしれませんが、これがあれば山で温かい飲み物や食べ物を摂ることができます。食事や休憩の時間を充実させるためにも、ぜひとも持ちたい道具です。いうまでもありませんが、調理や湯沸かしができる道具やノウハウは災害時にも役に立ちます。
登山用品専門店にはさまざまなストーブが並んでいますが、初めて手にするなら、おすすめは断然LPガス(液化石油ガス)を使用するガスストーブです。なぜなら扱いやすいから。だれでも簡単に使えて、火力も十分にあり、軽量・コンパクトで携行性も申し分ありません。山で使用するストーブに求められる性能をバランスよく備えています。
ガスストーブのなかにもいくつか種類がありますが、扱いやすさや燃料入手の面でもっともオーソドックスなのがOD缶と呼ばれるガスカートリッジを使うタイプです。今回紹介するプリムスのスターターボックスIIIは、これから登山やキャンプを始める人のために、このOD缶を使用するストーブとクッカーをセットにしたもの。P-157インテグストーブは最新の機能を搭載したニューモデルです。それぞれの特徴をイワタニ・プリムスの鈴木 伶さんに聞きました。
スターターボックスIIIは、P-153ウルトラストーブとガスカートリッジ、カートリッジに取り付けて設置を安定させるカートリッジホルダー、容量1ℓのクッカー、ライテックトレックケトル&パンがセットになっています。
P-153ウルトラストーブはプリムスを代表する定番です。X字型の4本ゴトクはクッカーを乗せたときも安定感があり、3,600kcalと火力も十分。軽量で収納性も高く、2004年の登場から、ほぼ形を変えずに続いているロング&ベストセラーです。
「バーナーヘッドの形状は、炎が広がる拡散型と呼ばれるタイプです。鍋底全体に効率よく炎が当たるので、湯沸かしはもちろん調理もしやすいストーブです。X字型のゴトクは上からみるとバーナーヘッドを四分割するような形状で、防風性にも優れています。これは1985年に登場した2243(現行のP-2243AWクラシックトレイルストーブ)から続く伝統的な形で、クッカーを乗せることで機能するようにデザインされています」
ライテックトレックケトル&パンはアルミニウム製で容量1ℓのクッカーです。蓋はミニフライパンとして使用可能。外側には表面に硬い皮膜をつくるハードアノダイズド加工を施して、耐久性を高めると同時に汚れにくくしています。内側はノンスティック加工で焦げ付きにくく、使用後の手入れも簡単です。
「鍋底には滑り止めの加工を施しています。細かいようですが、溝をつけることで表面積が広くなっているので、熱効率を高める効果もあります。250サイズのカートリッジとストーブ、カートリッジホルダーのすべてを収納することができるので持ち運びもしやすく、初めての人にもとても使いやすいセットです」
P-157インテグストーブは、昨年(2024年)秋に登場したニューモデルです。スターターボックスIIIは初心者が最初に手にするのに最適のセットですが、こちらは買い替えを検討するベテランも注目の製品です。プリムスのコンパクトストーブとしては初めてレギュレーター機構を搭載しました。
レギュレーターは、ガスの流量を一定にする整流機構です。これがあることで外気温の変化に応じた安定した燃焼が可能になります。
LPガス(Liquefied Petroleum Gas)のカートリッジには、その名の通り液化したガスが詰まっています。カートリッジを燃焼器具につなぎ、器具のバルブを開くとこのガスが噴出・気化して燃焼する仕組みです。
もともとは気体のガスを液体にすることで体積をぎゅっと圧縮して、簡単に持ち運べるようにしたLPガスですが、液化したガスは低温では気化しにくいという性質があります。また、燃焼を続けることで気化熱によって、カートリッジがさらに冷やされて気化しにくくなり、火力が低下してしまうこともあります(この現象をドロップダウンといいます)。
山でガスストーブを使ったことがある人なら、寒すぎて使えなかったり、使用を続けるうちにカートリッジが冷たくなって火力が弱くなったりするのを経験したことがあると思います。レギュレーターは、LPガスが持つこの弱点を解消してくれます。
火力調節のワイヤーハンドルと連動して動くレギュレーターは、バルブを開いたときに噴出するガス圧に応じてガスの流路を調整する仕組みです。低温でカートリッジの内圧が下がり、ガスが気化しにくくなってきたときにはガスの通り道を広げ、ガスが通りやすくすることで出力の低下を防ぎます。反対に、カートリッジの内圧が高まる(=ガスが気化しやすくなる)温暖な環境下では、ガスの流量を抑えて燃費と燃焼効率を最適化します。
P-157インテグストーブに採用されたレギュレーター機構は、じつは、日本におけるプリムスのパートナーである岩谷産業が家庭用プロパンガスの分野で長年培ってきた技術を応用したものです。レギュレーター(小型調整器)自体は一般家庭で屋外に設置されるプロパンガスのボンベにも使われていて、1950年代の発売当初から採用されているそうです。
レギュレーター機構の採用は大きなニュースですが、P-157インテグストーブの特長はこれだけではありません。ゼロから設計したという高効率のバーナーヘッドや、クッカーを支えるゴトク面を従来よりも高い位置にして炎の温度を無駄なくクッカーに伝えるデザインなど、これまでに培ったストーブ製造のノウハウを惜しみなく投入し、そのうえで100gジャストという軽さも実現しました。
スウェーデンのプリムス社と日本のイワタニ・プリムスが共同で開発し、日本国内の製造工場の技術力あってこそ実現した意欲作。軽量・コンパクトなうえに季節を問わずに安定した性能を発揮してくれるP-157インテグストーブは、山で使用するガスストーブの新しいスタンダードになりそうです。
スターターボックスIII(P-STB3)
P-153ウルトラストーブ、ライテックトレックケトル&パン、IP-250Tハイパワーガス(小)、カートリッジホルダーのセット。ガスカートリッジは、ブタンガス約75%とプロパンガス約25%で配合し、特殊繊維の内張によって気化効果を高めたハイパワータイプでオールシーズン使用可能。
セット内容
153ウルトラバーナー
IP-250T ハイパワーガス(小)
ライテックトレックケトル&パン
カートリッジホルダー
153ウルトラバーナー
燃料:ガス
出力:4.2kW/3600kcal/h(T型ガス使用時)
燃焼時間:約55分(IP-250タイプガス使用時)
ゴトク径:大148mm/小90mm
収納サイズ:7.5×8.8×3.0cm
重量:116g
附属品:ナイロンスタッフバッグ
P-157インテグストーブ(P-157)
レギュレーター機構を搭載し、燃費と燃焼効率を最適化した新たなフラッグシップ。スウェーデンのプリムス社と日本のイワタニ・プリムスが共同で開発し、高い技術を持つ日本の工場で製造するメイド・イン・ジャパン。
燃料:ガス
出力:3.3kW/2840kcal/h(T型ガス使用時)
燃焼時間:約62分(IP-250Tガス使用時)
ゴトク径:148mm
収納サイズ:7.3×10.1×4.7cm
重量:100g
附属品:ナイロンスタッフバッグ
*ガスカートリッジ別売
(文=伊藤俊明 写真=岡野朋之、イワタニ・プリムス)
↓より安全で快適な登山を。掲載した「プリムス・ストーブ」の詳細はこちら
ご存じですか? 年会費が無料にできる還元制度