13(トザン)日は【AJ MALLの日】特集|安全登山のための道具術
山岳•アウトドア関連の出版社勤務を経て、フリーランスの編集者に。著書に『テントで山に登ってみよう』『ヤマケイ入門&ガイド テント山行』(ともに山と溪谷社)がある。
記事一覧登山用のストーブには、さまざまな種類があります。一体型に分離型などの「かたち」のちがいのほか、ガソリンを使うもの、アルコール燃料を使うもの、そしてガスカートリッジを装着して使うものなど「燃料」だけでも数がありすぎて、購入が初めてであれば、果たしてどれを選べばいいのかと悩んでしまうことでしょう。
ストーブのそもそもの役割は、火を自在に扱うこと。火を点けることでお湯を沸かし、食べ物を調理して、灯りを得ることもできます。また、もしものときには暖を取るための熱源としても大いに役立つことでしょう。火はひとに安心感を与えてくれます。たとえピンチに陥ってしまったとしてもストーブがあれば、気持ちを落ち着かせることもできるし、食べること、飲むことで体力の回復も図れます。
さて、山で使うストーブとはどんなものなのか。また、どんなタイプを買うべきなのか。その選び方のポイントも含めて、紹介します。
冒頭にも書きましたが、ストーブはいくつかの指標から種類の分類ができます。まずはその「かたち」から見てみましょう。一般に、燃料タンクとストーブの本体、つまりバーナーの部分がひとつになっているのが一体型といわれています。また、燃料タンクと本体が燃料管でつなげられていて、それぞれが分けられているタイプがあります。こちらが、分離型です。
燃料タンクといっしょになっているので一体型は背が高くなり、分離型は低く抑えることができます。一体型はバーナーのサイズもさほどは大きくできませんが、その分、軽くコンパクトなタイプが多くつくられています。いっぽうの分離型は、バーナーを大きくすることができ、大きなコッヘルなどを乗せやすくなっています。みんなで鍋を囲むような場合は、その低さも相まって分離型の方が安定感が得られます。
続いての指標は「燃料」です。火は燃料を燃やして得られるものです。山での究極の燃料は、枯葉や小枝などの薪木です。ライターやマッチ、または火を熾す技術や道具があれば焚き火ができますが、環境面から考えても、安全面から考えても山行中に焚き火をするのは得策ではありません。そこでストーブの登場となるわけですが、現在、山岳用のストーブで使われている燃料は大きく分けて3つあります。
まずは、一般的に「ガス缶」や「ガスカートリッジ」といわれているタンクを使うガス式のもの。さらに、ガソリンや灯油などを燃料とするガソリン式。そして、アルコール燃料を燃やすアルコールストーブです。それぞれ火力のちがいや扱いやすさなども含め、多種多様ですが、中でもいちばん安定して扱いやすいのがガス式のストーブといえるでしょう。生の燃料を運搬したり、注ぐ必要もあることから、アルコールもガソリンも少し上級者向けの様式だといえます。
ただし、ガスカートリッジはどこでも手に入るわけではありません。たとえば、ガスカートリッジは安全管理上、そして法律上でも飛行機に乗せることはできません。そこで、燃料の入手が困難な海外の遠征に行くような場合は、ガソリンタイプを選ばざるを得ないこともあるでしょう。さらに、ガソリン式は事前準備として、タンク内の圧力を上げるためのポンピングが必要だったり、(最近はあまり必要がありませんが)プレヒートといって、バーナーをあたためてガソリンを気化させやすくするための作業が伴うことがあります。このような一連の作業を好んで、敢えてガソリン式を選ぶひとも多いとは思いますが、あまり山慣れしていないひとにはおすすめできません。
上記の理由から、ここではガスストーブの選び方を掘り下げていきたいと思います。ガス式の利点といえば、何でしょうか。まずは、その扱いやすさが挙げられます。ガスカートリッジは、安定してガス燃料を運搬できる用具です。そのカートリッジをストーブの本体にねじ込むだけで、準備は完了です。点火のためのオートイグナイターが付いているモデルも多く、ノズルを回して燃料を少しだけ出し、カチッと点火すれば完了です。それだけで、安定した火を自分のものにできてしまいます。
火力を強くしたければノズルを開けて、小さくしたければ閉めるだけ。自由自在に火が扱えるのは、山行中の大きな利点といえるでしょう。また、ガスストーブのすぐれたところは、使う季節に応じて、ガスカートリッジに使う燃料の配合を調整していることでしょう。イワタニプリムスのガスカートリッジを例に紹介すれば、次のようになります。
このように燃料の内容を変えるだけでなく、どんな状況にも対応できるようにガスカートリッジの容量サイズにも幅を持たせています。以下の写真は、左からIP-500T(460g)、IP-250T(225g)、IP-110(100g)です。
このサイズのちがいにより、自分たちのパーティの人数や山行日程に合わせたカートリッジ選びができるようになっています。単独の数日くらいの山行に500Tは必要ありません。ひとりであれば、110の小型ガス缶で十分に足りるでしょう。山小屋泊なのかテント泊なのかによっても、つまりストーブを使うシーンの多少によっても、持っていくべきサイズにちがいが出てくるでしょう。
ストーブ選びの際には、ここが重要なポイントとなります。いつ(季節)、だれと(人数)、どこに(低山or高山)、どれだけ(日数)、どんな手段で(山小屋泊orテント泊)山に入るのか。それぞれの山行によって、選ぶべきストーブもカートリッジも変わってくることを覚えておきましょう。
もうひとつストーブを選ぶときに知っておきたいポイントがあります。それは、バーナーの炎のかたちです。写真を見れば一目瞭然ですが、左は縦型に炎が立ち上がっています。そして右は炎がたまご型に丸く膨らんでいます。
この炎のかたちの差によって、ストーブに性格にもちがいが出てきます。上に乗せるコッヘルのサイズや性能との相性もありますが、縦型の炎は中心部分のみ火力が強いため、あまり調理向きではありません。むしろ、短時間でお湯を沸かしたりする方が得意です。たまご型の炎は、鍋底全体に炎が広がりやすくなるので、真ん中だけが焦げ付くようなこともなく、調理もしやすいことでしょう。最近は熱効率のよいコッヘルも数多くあるので、あくまでも得手不得手の問題ですが。また、燃焼効率を上げるための補助的なアイテムも数多くつくられていますので、いろいろと試してみるのもいいと思います。
さて、収納についても考えてみましょう。まずは、ガスストーブ本体とガスカートリッジが必要です。また、お湯を沸かす、調理をするためのコッヘルも持っていかねばなりません。そんなときに悩ましいのが収納の方法です。パッキングなどの作業効率を考えれば、カートリッジとバーナーがきれいに収まるコッヘルを選び出すことがポイントとなります。これを逆手にとって、最初からセットで売り出しているようなモデル(プリムス・スターターボックスⅢ)などもありますので、ぜひ参考にしてみてください。
コッヘルに収納するのもひとつの手ではありますが、別の収納袋やボックスをつくっておくのもいいと思います。この袋を持っていけば、火を熾す道具が一式入っているというように、自分なりの工夫をしてみてください。山用具のパッキングは山の技術のひとつでもあります。山行のサイズやパーティの人数によって、袋を使い分けてもいいし、簡単に組み替えられるようにしておけば、空間の効率も時間の効率も上手に使えるようになるでしょう。
(文=宮川 哲 写真=岡野朋之)
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