2024-04-12
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転ばぬ先の杖

13(トザン)日は【AJ MALLの日】特集|安全登山のための道具術

宮川 哲
編集者

山岳•アウトドア関連の出版社勤務を経て、フリーランスの編集者に。著書に『テントで山に登ってみよう』『ヤマケイ入門&ガイド テント山行』(ともに山と溪谷社)がある。

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 もちろん、トレッキングポールがなくとも山歩きはできます。足運びが上手なひとであれば、トレッキングポールがない方がむしろ、バランスがとりやすいという場合もあるかもしれません。そういった意味では、登山の必携品というわけではありませんが、安全登山という観点からみれば、トレッキングポールはとても有用な道具です。

 また、自分の手の如く足の如く使えるようになれば、リズムを刻んで歩くこともできるし、推進力を得ることもできます。体力の温存にもつながっていくでしょう。転びそうになったときには、文字通りの「転ばぬ先の杖」として役立つにちがいありません。

 とくに重い荷物を背負って長距離・長時間を歩くような場合は、一歩ずつの力を分散させて身体を支えることができるだけに、トレッキングポールが果たす役割も大きいといえるでしょう。ピッケルを使うような雪山や高山でも、そのアプローチにはトレッキングポールを使うシーンも多々あります。ピッケルは斜面が急な場所でなければ使いにくいことも多く、なかにはトレッキングポールの方が出番が多いなんて雪山もあるかもしれません。

 トレッキングポールを上手に使い続けられれば、歩行時の身体の動きも自然に身に付けることができます。そうすれば、当然ながら歩き方もうまくなっていく。これは、山を安全に歩くことにもつながっています。

 では、トレッキングポールの基本的な選び方を考えてみましょう。

自分にちょうどいい基本のサイズを選ぶ

 トレッキングポールにもさまざまな種類があります。まずは、本数ですね。ダブルで使うのか、1本で使うのか。これは、好みにもよりますが、登山のようにほとんどが整地されていないような場所を歩くのであれば、よりバランスの取りやすい2本使いの方がおすすめです。山に慣れていないならば、なおさらダブルを使った方がいいでしょう。平坦なコースばかりを歩く状況だったり、山慣れしていてトレッキングポールはあくまでも補助的なアイテムとして使うということであれば、1本使いでもまったく問題はありません。

 次にグリップの形状ですね。T字型になっていたり、I字型だったり、両方の使い方ができるモデルもあります。ただ、山で使う場合のグリップは、I字型が多く、持ち運びや収納のことを考えれば、こちらの方が使いやすいかもしれません。グリップの部分は素材がゴムだったり、EVAという合成樹脂だったり、コルクを使っている場合もあります。

 そして、短くしたときの収納方式によるちがい。3段の伸縮式なのか、折りたたみ式なのかも選ぶ際のポイントとなってきます。このちがいについては、後ほど詳しく紹介します。

 さらに、サイズ選びの基本について。通常は、グリップを握って自分の腕がほぼ直角に曲がるくらいの長さに設定します。たいていのモデルは数センチの幅で長さの調節ができるようになっていますので、その調節幅を考えながらちょうどいいサイズを選ぶといいでしょう。やはり、一度は専門店などで実際に手に取ってサイズ合わせをした方がベターです。

 その90度の角度をベースにして、登りでは短めに、下りでは長めに設定をします。こうやって、歩く場所の状況に合わせて微調整ができるのがトレッキングポールの特徴のひとつでもあります。長さの調整はレバーロック式かスクリュー式のどちらかのタイプ。モデルによって異なりますが、慣れてしまえば簡単に扱えます。かつてはほとんどのモデルがスクリュー式でしたが、最近はワンタッチで調節できるレバーロック式が多くなっています。

 カーボンなのか、アルミなのか。本体素材のちがいにも注意しましょう。カーボンは軽く持ち運びやすいのですが、アルミに比べればやや強度に劣る場合もあります。どちらも必要以上の荷重が掛かったときには問題がでるものですが、カーボンは折れやすく、アルミは曲がりやすい性質があります。曲がったものは直せる可能性はありますが、折れてしまっては現場ではどうしようもなくなってしまう。この点は注意したいところです。また、カーボンはたいての場合はアルミよりも価格設定が高くなっています。

伸縮タイプ or 折りたたみタイプ

 長い間、トレッキングポールは3段式の伸縮タイプが主流でした。スクリュー方式で長さを調節しながら使っていましたが、このタイプは収納時にどうしてもある程度の長さが必要になってしまい、バックパックにしまい込むときに難儀したものです。この伸縮タイプとはまたちがった考え方で誕生したのが折りたたみタイプのモデルです。こちらは、それぞれのシャフトが1本のコードでつながれており、組み立ても収納も動作ひとつでできるといった特徴があります。また、伸縮式よりも小さくなるので、まるごとバックパックに放り込めるという利点もあります。

 さて、どちらを選ぶべきでしょうか。もちろん、好みで選んでも問題はありません。が、たとえば、国際山岳ガイドで、ココヘリ安全登山学校の学長でもある近藤謙司さんは、以下のように言っています。

「トレッキングポールですが、登山には、よく折りたたみ式のものをお勧めしています。折りたたみができれば、バックパックの中にすっぽりとしまうことができます。ちょっと前までは折りたたみ式はなかったので、トレッキングポールをしまうときの定位置はバックパックの外側しかありませんでした。3段式とはいえ、長いですからね。バックパックの外に括り付けているとどうなるか。たとえば、ロープワークのときに、いちいち引っ掛かってしまうこともあります。これは、ある意味、リスクですよね。ロープワークが必要な場面では、まずお勧めできません。バックパックはできるだけシンプルに。これが基本ですから、中にすべてがしまい込める折りたたみ式のものがベストだと思います」

 こんな意見がありつつも、雪山ではまたちがった観点もあるようで、以下のようにも語っています。

「ただし、折りたたみ式のトレッキングポールには弱点もあります。じつは、バックカントリーでの使用にはあまり向いていないのです。なぜかというと、バックカントリーではトレッキングポールに掛かる荷重が、かなり大きくなることが多いんです。折りたたみのものは、伸縮式に比べて多少、弱い。また、折れてしまった場合のリカバリーがしにくいんです。3本を伸ばすタイプの方が比較的に丈夫にできています。たとえ1本が折れてしまったときでも、ほかのパーツを伸ばして使うこともできますからね。それから、リペアがしやすい。折りたたみ式に比べれば、直しやすいんです。なので、バックカントリーで山に入る人、山スキーとか山でスノーボードをやる人は、トレッキングポールは伸縮できるタイプのもののほうがいいですね」

 こう考えてみると、バックカントリーでは折りたたみ式ではなく伸縮タイプがよさそうです。逆に岩場での登攀時にロープワークをするときには、折りたためてバックパックの中に全部入れられるほうが便利ということに。つまり、用具選びに必要なのは、自分が「どんなスタイルで山に入るのかによる」ということになるでしょう。状況に応じて使う用具を変えていく、そんな考え方も大切なことです。

ミニコラム:まるごとバックパックに放り込める

その場の状況に柔軟に対応する

 先ほど、登りではトレッキングポールを短めに、下りでは長めに設定するといいと書きました。もちろん、基本の使い方はこれで問題はないのですが、登山道では登りや下りだけががずっと続いているわけではありません。突然、大岩が出てきたり、下ったと思ったらすぐに登り返しになっていたりすることも多いと思います。そんな場合に、いちいち立ち止まってトレッキングポールを調整している余裕はないでしょう。時間ばかりが掛かってしまいます。

 では、どうすべきか。グリップを握っていなければならないという決まりはありません。ならば、グリップ以外のところを持って、つまり持つ場所を変えることでトレッキングポールの長さを調節してしまえばいい。モデルにもよりますが、グリップの下の部分に「アンダーグリップ」という別の持ち手を設けているものもあります。

 登りでちょっと短くしたいのであれば、ストラップから手を外してこのアンダーグリップに持ち替えるだけでOKです。これで、長さの微調節が可能です。なので、ストラップもつねに付けておかないといけないわけでもありません。とくに冬場の登りなどではストラップで鬱血してしまうこともあり、あえて外しているひとも多いようです。登り下りが細かく繰り返されるようなら、ストラップは外してしまった方が動きやすくもなるでしょう。ただし、「落とさない」ことが絶対条件とはなりますが。

 さて、状況に応じて対応するという意味では、バスケット選びも重要です。雪のない場面で使うなら、引っ掛かりのない小ぶりの丸いバスケットを、雪上で使うなら大ぶりの雪山用のタイプを使います。これも自分が登る山の状況を考えて、フレキシブルに変更できるように準備をしておくべきでしょう。

 また、石突の先に取り付けるゴムのことも意識して欲しいですね。必要な場所では石突のカバーを取り付けておく。これも山登りのマナーのひとつといわれています。よくなくなってしまうので、予備パーツを用意しておくことも忘れずに。

ミニコラム:石突の先に取り付けるゴム

(文=宮川 哲 写真=岡野朋之)

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