2023-04-19
義務化施設

ココヘリ携帯の義務化開始からワンシーズンを終えて。

宮川 哲
編集者

山岳•アウトドア関連の出版社勤務を経て、フリーランスの編集者に。著書に『テントで山に登ってみよう』『ヤマケイ入門&ガイド テント山行』(ともに山と溪谷社)がある。

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目次

~オグナほたかスキー場の所長・須藤和道さんにお話を伺いました。

 群馬県の川場スキー場からの武尊山への冬季登山に、ココヘリ端末の携帯が義務化されたのが2019年4月のこと。あれから4年が経ち、多くの登山者たちにそのシステムや携帯の意義が認知されるようになりました。そして、22-23年のシーズンからは、川場のおとなり、オグナほたかスキー場でもバックカントリーでの入山の際にはココヘリの携帯が義務化とされています。


 オグナほたかスキー場は3月26日に今シーズンの営業を終えていますが、ちょうど、ココヘリ携帯の義務化開始からワンシーズンを終えたタイミングでもあり、所長の須藤和道さんにお話を伺いました。そのインタビューの様子をレポートします。

オグナほたかスキー場
所長・須藤和道さん
profile すとう・かずみち
片品村振興公社に所属。須藤さんはもともと川場スキー場のスタッフでもあり、現在は、オグナほたかスキー場とかたしなほたか牧場キャンプ場の所長を兼任。川場スキー場での仕事経験も長く、ココヘリ義務化の経緯もよく知る人物だ。今回のココヘリ携帯の義務化導入にも、大きな役割を果たしている。

「ココヘリ携帯の義務化」導入の経緯


 去年までは、センターハウスにポストを設けていました。そこに登山届を出してもらうのですが、人が付いているわけではなく各人が任意で投函するだけでした。スキー場としては、エリア外なのでそこまでの管理は本来は必要はないのですが、毎日、営業終わりにはポストを開けて内容のチェックをしていました。そのときにまだ帰ってきていない人がいるとか、または駐車場に車が残っていることがあったりとかすれば、その確認をしなければならなくなります。さすがに来場者の車が止められたままであれば、スタッフは帰るわけにはいきませんので、問題ではあったのです。


 それで、もう数年も前から川場のほうでココヘリの導入があり、実際にお客さんに安全が届けられることが実証されてもいましたので、オグナほたかスキー場でも取り入れてみようとなったのです。ココヘリを借りるには登山届を出す必要もあり、それで無事に帰ってもらえるなら……というよりは、みなさんにもっと意識を持ってもらうために導入を決めた、そんな経緯になっています。


シーズンも最終盤の3月20日、もう雪も少なくなったゲレンデをボードで滑る須藤さん。


 リフトの下り線運用の許可をとっていないので、このスキー場では、下りは乗れないんです。だから川場のように登山客がいるわけではありません。ここはバックカントリーですよね。スキー場の最上部から前武尊へのバックカントリーに入る人が多くいましたので、ココヘリの携帯義務化には、ある程度の意義もあると思っています。実際に、入山する人たちの意識を向上させるのには役立っているようです。ココヘリのレンタル、または登山届の提出の際には、スキー場のスタッフが窓口に常駐しているので、そこで必ず声掛けができますからね。


 でも、他のルートから入るなどしてスキー場に寄ってもらえないとココヘリのシステムは使えない。それでも、なるべく立ち寄ってちゃんと届けを出して欲しいとは思っています。そうするだけでも、多少なりとも入山への意識は変わってくるはずですから。

チケット売り場の横に設けられた「BC DESK」。オグナほたかスキー場から前武尊へのバックカントリーに入る人は、ここで必ず登山届の提出を! ココヘリはレンタルも可能。



オグナほたかスキー場のWEBサイトでも掲載されているココヘリ携帯義務化の告知と詳細。現場でのレンタルでも事前の予約でも対応できる。


認知されていたココヘリ携帯の意義


 運用を始めてみて驚いたのですが、すでにココヘリに加入をしていて端末を持参してくる人が、だいたい3分の1くらいはいらっしゃいます。残りの3分の2はレンタルになりますが、数としてとても多いですよね。


 ココヘリは、けっこう浸透していますよね。トータルでいえば、この1月、2月で1,000人くらいは利用していますね。じつは今年からの携帯義務化にともなって、ユーザーから少しはクレームが出るのかなと思っていたのですが、実際はほぼありませんでした。むしろ、当然だよねみたいな人も多く、抵抗感もなく受け入れられているように思いますね。


 ただ、スキー場としてのむずかしいところは、バックカントリーはスキー場の管理区域外なんですよね。だから、積極的にバックカントリーへ入ろうと謳うわけにもいかない。でも、現実としてそこで事故が起きることもあるので、それならば、ココヘリ携帯の義務化をしてしまおう……という感覚だったのですが、やり始めてみたら、山に入る人が少し増えたようにも思っています。多少なりともホームページでこの義務化を伝えたことが、逆に安心につながっていったのかもしれません。


第6リフトの山頂駅からうえは、バックカントリーの世界。スキー場の管理区域との境には、「これより先、スキー場管理区域外 スキー場パトロールは救助活動できません」と目立つように注意喚起がされている。


 区域外なのに滑っていいのか、という話になってしまうとどうしようもないのですが、やっぱり、スキー場のルールでも守ってもらえないことは多いですよね。リフトに乗っていれば、下はパウダーだったりして、ロープをくぐって入ってしまう。それは、どこのスキー場でも多少は見受けられることなんだと思います。でも、実際にそこで事故を起こしてしまう。よくニュースで取り上げられていますよね。


2月に発生した事故の例


 オグナでもこの2月に事故がありました。スキー場内ではなく、バックカントリーでのことですが、下山の時刻を過ぎてもその一報もなく、これは、ということになりました。スキー場の営業時間も終わるので、まずはその人に電話をしたのですが、つながらない状態でした。緊急連絡先にもかけましたが、こちらもダメ。すでに暗くなってきていたので、警察への連絡を決めました。


 そのときに、チケットカウンターにいっしょに同乗してきたという同行者がやってきました。センターハウスのところで16時半に待ち合わせをしていたけれど、山に行った仲間が降りてこないという話でした。少しパニックになっていて……。ココヘリのID番号もその日のルートも全部記載してあったので、それを警察にも共有して、ココヘリにも連絡をして。ただ、天気もよくないうえにもう時間も遅く、この日の捜索はしないこととなりました。


 次の日になってから朝イチで山岳警備隊が入って、防災ヘリもココヘリのヘリも飛んである程度の位置情報は確認できたという話です。でも午後になってから、警察のほうに本人から無事の連絡が入ったようでした。山頂まで自力で登り返して、そこからスキー場へとたどり着いたと。けっこう山に慣れていたようで、前の日の早い時間、16時くらいにはもうビバークを決めていたようですね。まあ、事なきを得ましたが、登山届やココヘリが実際に活用された例ですよね。


前武尊からの斜面には、シーズン中に付けたれたシュプールがいく筋も。もう春先のこの季節にも、多くのバックカントリースキーヤー・スノーボーダーが入山しているようだ。


 とはいえ、スキー場側ができることは限られていますね。やはり管理区域外なので、スキー場としては場内の部分でしかタッチできない。こちらのスタッフを危険にさらすこともなかなかできない。スキー場まで出てきてもらえれば搬送とか、そういうのはパトロールで対応できると思うんですけど、それ以外は、もう山岳警備隊にお任せするかたちにはなってしまいます。


大切なのは事前の情報共有


 われわれができるのはやはり、情報の共有ですよね。とくに事前の情報共有ができる。ココヘリをレンタルする窓口で直接、当事者と話ができるのは大きいですよね。今日は午後から崩れそうだとか、雪崩の危険性が高いからと声掛けをするだけでも意識がだいぶ変わってくるじゃないですか。ここには1日に何百人もくるわけじゃないから、なるべく声を掛けて話をする、話を聞くことにしてます。


 本当はココヘリだけでなく、ビーコンチェッカーなども導入すべきなのかもしれませんが、それだけハードルを高くしてしまうのもどうかとは思います。やっぱりバックカントリーは、どこまでも自己の責任の部分はあるはずなので。そこをスキー場はどこまで踏み込んでいくかっていうのは、これからの課題になるのかなと思っています。


 こういったことはたぶん、ひとつのスキー場でやっていても広がらないんでしょうね。もっと、こうエリアでの取り組みというか、川場での成功例をオグナほかたでつないで、今度はどこそこでと、もっともっと広げていったらいいでしょうね。まずは、今年のシーズンが終わりましたので、ココヘリ導入のデータも整理ができると思います。また来シーズンへ向けて、しっかりと整えていきたいですね。


オグナほたかスキー場は、最高所で標高1,828m。人工降雪機はまったく使っておらず、シーズン中であれば、北関東でもパウダースノーが楽しめるスキー場として一般のスキーヤー・スノーボーダーにも人気が高い。また、前武尊エリアでのバックカントリーの入山口としても位置付けられている。


(写真=岡野朋之、構成・文=宮川 哲)

オグナほたかスキー場

川場スキー場での義務化取り組み

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