2024-02-13
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持たずには行けぬ!登れぬ!雪山装備の選び方

13(トザン)日は【AJ MALLの日】特集|安全登山のための道具術

伊藤 俊明 
ライター・編集者

本好きが高じて企画・編集会社に勤務し、アウトドアをはじめとす る趣味の雑誌編集に関わったのちに独立。思う存分スキーを楽しむ ために夏に頑張るアリンコ系ライター・編集者。インタビューや道 具の紹介、解説記事が得意分野。

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 冬になると山は、夏とはまた違う表情を見せてくれます。雪が積もると風景は角をなくして、丸く優しい曲線を描きます。踏み跡がない真っ白い斜面に最初の足跡をつけるのはこの上ない喜びです。

  冬の山には、冬山ならではの楽しみがあります。雪山登山、スノーシューハイキングやバックカントリースキー/スノーボード、凍った壁を登るアイスクライミングのように冬にしかできない遊びがあり、それぞれに特化した道具があります。今回は雪山登山の基本的な装備の選び方を解説します。

滑り止めのアイゼンは3タイプ

 雪山登山特有の道具と聞いて、多くの人が最初に思い浮かべるのがアイゼンとピッケルでしょう。滑りやすい雪上で、歩行を補助して安全を確保するための道具です。

 アイゼンの語源は、ドイツ語の( Steigeisen)です。シュタイゲン(steigen=登る)とアイゼン(Eisen=鉄)を組み合わせた言葉で、私たちが使っている「アイゼン」は、これを短くした和製語です。英語では「クランポン(crampons)」で、最近はこちらを使うメディアも増えてきました。どちらも同じ、登山靴のソールに付ける金属製の爪を指す言葉です。   

 アイゼンは爪の数や形状によって大きく3タイプに分けられます。  

 ひとつは、低山や夏の雪渓で使用する「軽アイゼン」と呼ばれるタイプ(写真未掲載)。足裏のみに6本や8本の爪があるもので、緩斜面や雪渓のように部分的に雪の上を歩くような場面に向いています。持ち運びがしやすく、それなりの滑り止め効果を備えてはいますが、前爪を使えないため急斜面には向いていません。

  スポット的に使用する軽アイゼンに対して、雪山を歩くためのスタンダードが「12本爪」や「10本爪」のアイゼンです。足裏全体に均等に爪を配置することで滑りやすい雪面もしっかりとグリップし、2本の前爪を蹴り込むことで急斜面にも対応できます。

  軽アイゼンと同じような役割ながら、足裏全体をカバーして歩きやすいのが「チェーンアイゼン」です。凍った林道のようなところにも有効で、12本爪や10本爪とチェーンアイゼンの両方を持ち歩いて場面によって使い分ける人もいます。

12本爪、10本爪アイゼンの選び方

 滑り止めのアイゼンを選ぶときにもっとも重要なのは、自分が履いている登山靴と合っていることです。登山靴に確実に固定でき、金属の爪が足裏全体にバランスよく配置されて、歩行中に緩んだり外れたりしないものを選びます。

  標準は12本爪ですが、足が小さい人で、装着したときにアイゼンのつま先側とかかと側が近くなりすぎる場合は10本爪の方がバランスよく爪を効かせられます。形状にも相性があり、登山靴のつま先のカーブやソールの形状、硬さが合っていないとしっかり装着できずに、歩行中に外れてしまうなどのトラブルの元になるので慎重にチェックしましょう。

  選択時には、素材や装着方法による違いも注意すべきポイントです。

  アイゼンの主な素材はクロームモリブデン鋼(以下、クロモリ)、ステンレス、アルミニウム(以下、アルミ)の3種類です。冬山登山で使用するなら、クロモリかステンレスが定番。クロモリの利点は、十分な強度がありながらメンテナンス性に優れていることです。錆びやすいため水分を抜き取るなどの使用後の手入れは欠かせませんが、ステンレスに比べると柔らかく、爪が丸まったときも簡単に研ぐことができます。一方のステンレスは市場では少数派ですが、錆びにくいのが利点。クロモリに比べるとわずかながら軽量でもあります。

  柔らかいアルミ製は携行性を重視したタイプで、バックカントリースキーやスノーボードが主戦場です。メインの歩行にはシールやスノーシューを使い、それでは歯が立たない急斜面でアイゼンを取り出すという使い方。岩場を長時間歩くような使い方は想定しておらず、強度よりも軽量化を追求しています。

  登山靴への装着方法は3通りです。

  もっとも確実に、素早く装着できるのが「ワンタッチ式」。アイゼンつま先側の金属ワイヤーに登山靴つま先のコバを差し込み、かかとのコバにレバーを引っ掛けて固定するだけです。吹雪のなかでも、グローブをした手でも少ない手数で装着できます。

 ワンタッチ式は前後にコバが付いた靴でなければ装着できませんが、どんな靴でも使えるのが「ストラップ式」です。装着の手間はありますが、複数の靴を使い分けるときでも柔軟に対応できます。

  両者の中間が「セミワンタッチ式」です。つま先側をストラップ、かかと側をレバーで固定するタイプで、かかとにコバがある登山靴で使用できます。

  購入時は試着が必須です。雪山で使用する登山靴を持ち込んで相性を確かめながら、素材や装着方法にも留意して選びましょう。

ピッケルは登る山に合わせて選ぶ

 ピッケルもアイゼンと同じくドイツ語由来の和製語で、正しくはアイスピッケル(Eispickel)です。英語ではアイスアックス(iceaxe)。余談になりますが、フランス語ではピオレ(piolet)です。「登山のアカデミー賞」とも呼ばれる「ピオレドール(Piolet d’Or)」は金のピッケルという意味で、受賞者には金色のピッケルが贈られます。 ミニコラム:「登山のアカデミー賞」とも呼ばれる「ピオレドール(Piolet d'Or)」

 ピッケルは、歩行中はバランスを取るのに使い、急斜面では雪面に刺して手がかりにします。もっとも重要な役割は滑落停止で、転んで滑り出したときに雪面に突き刺し、スピードを抑えて滑落を止めます。

  ピッケルを選ぶときにはシャフトの長さと形状をチェックします。シャフトの長さは、以前はヘッド(ピッケルをT字に見立てたときに上の横棒にあたる部分)を持ったときにシャフトの下端がくるぶしにくる長さがよしとされていました。しかし、最近ではこれよりも短めが推奨されています。長すぎると、斜面で手がかりにするときに取り回しが悪いというのがその理由。斜度がない場所ではトレッキングポールを使い、急な斜面でピッケルに持ち替えるという人もいます。

  ストレートシャフトは杖のように使うときは扱いやすいですが、同じく急斜面では持て余すため、斜面に刺しやすいベントシャフトが推奨されています。ある程度斜度のあるところで本領を発揮する道具と考えれば、長すぎないベントシャフトがスタンダードといえそうです。しかし、ストレートシャフトの長めのピッケルの方が使いやすい場所もあります。緩斜面が多い入門的な雪山で杖として使うことが多いのなら、くるぶしくらいの長さのあるストレートシャフトの方が向いています。すべての登山道具と同じように、ピッケルもまた適材適所。経験を積んで難しい山に行くようになったとしても、やさしい雪山を歩く機会はきっとあります。はじめにストレートシャフトを買ったとしても、無駄な買い物にはなりません。

ミニコラム:カナモノの持ち運び時の注意点

登山者も持ちたいスノーセーフティ

 アバランチビーコン、プローブ、ショベルは、仲間が雪崩に巻き込まれたときに助け出すための道具です。3点セットで「スノーセーフティ」や「アバランチギア」などと呼ばれます。この3点は何一つ欠かせません。セットで持ってはじめて機能する道具です。

 アバランチビーコンは電波の受発信機です。行動中は電波を発信する状態にして身に付けます。発進する電波は国際的な規格で457kHZと定められていて、メーカーが異なるアバランチビーコン同士でも電波の発信/受信は問題なく行われます。万一雪崩に巻き込まれてしまった場合、難を逃れた仲間はアバランチビーコンを受信に切り替えて、巻き込まれてしまった仲間のアバランチビーコンが発信する電波を頼りにその位置を探します。おおよその位置がわかったら雪面にプローブを刺して埋没位置を特定し、ショベルで掘り出すというのが救助の一連の流れです。

  スノーセーフティは、雪崩のリスクが高いバックカントリースキーやスノーボード愛好者の間では常識になっていますが、雪山登山者で携行する人はまだまだ少ないのが実状です。しかし、雪崩に流されて埋まってしまった場合の生存率は、当然のことながら時間とともに低下します。従来は埋没後15分以内の救助が目標でしたが、最近は10分以内に埋没者の呼吸を確保するのが望ましいと言われるようになりました。外部からの迅速な救助が望めない山岳環境にあっては、パーティ内で救助活動できるのが最善であることはいうまでもありません。スノーセーフティは自分のためであると同時に、行動を共にする仲間を助けるための道具でもあります。まだ持っていないという人は、ぜひ導入を検討してください。

  最後に、アイゼンやピッケル、スノーセーフティのいずれも、初めて手にして扱えるものではなく、事前に使い方の練習をしておくべき装備です。ネットで検索すれば解説記事や動画はすぐに見つかりますが、雪の上での手応えや感覚まではわかりません。予習はもちろん有効ですが、初めての人は講習会等に参加して徐々にステップアップするのが理想です。山岳ガイドによる講習を兼ねた山行や、ココヘリの安全登山学校を上手に活用して、安全に楽しく雪山への第一歩を踏み出してください。

ココヘリ安全登山学校の記事へ

(文=伊藤俊明 写真=岡野朋之)

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