高山縦走からクライミング・沢登り・トレラン・バックカントリーと一年中オールラウンドに山を楽しむ。山道具好きが高じてライター・編集者に。典型的な器用貧乏で、やりたい事が多過ぎ、広く浅くになってしまっているのが悩み……。 Instagram:@k.suke5
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ココヘリでは、いまドローンチームの育成に力を入れています。なぜなら、現状のヘリコプターによる捜索に加え、ドローンでの地上捜索隊という新たな手段を持つことで、捜索の迅速化を図るためです。捜索手段が多角化することで、発見へといたる時間の短縮もできるようになる……そう信じて、関係メンバーは日々の訓練を積んでいます。
その訓練の一環として、この3月下旬にまだ雪の降る北アルプスの白馬にココヘリ・ドローンチームが集まりました。そのメンバーは、ドローンパイロットである川上晋さん、石沢考浩さん、石野真さん、太田毅彦さんの4名です。1泊2日で実施された今回のトレーニングの目的は、ふたつあります。まずは、初日にお互いの知識を出し合っての捜索オペレーションマニュアルのアップデートをします。そして、2日目には前日のマニュアルを精査しつつ、実機を使用しての擬似捜索を行ないます。
ココヘリの「発信機=遭難者」を捜索する方法は、いたって簡単。発信機が発信する電波を親機である「受信機」が受信し、発信機までの距離を確認しながら遭難者を捜索します。地上の救助隊やヘリコプターから捜索する場合は、捜索者が受信機を持ち、山の中に入っていく必要があります。やっかいなのは天気で、天候が悪化すると捜索を一時中断せざるを得ません。そこで活躍するのが、機動力の高いドローンです。ヘリコプターが飛ばせないような悪天下でも、ちょっとした晴れ間があれば、オペレーター(操縦者)はドローンを飛ばすことができ、ものの数分で数キロ先まで捜索することが可能となります。
ドローン捜索チームとして関わっているのは山岳ガイドや山岳関係者など、日本各地の13の個人や団体です。救助要請が来たら、地上捜素隊とともにドローンメンバーも編成され、連携を取りながら捜索を進めます。このドローンでの捜索がはじめて実施されたのは、2020年11月下旬に発生した大天井岳の捜索事案でした。地上部隊にヘリコプター、さらにドローンが加わることによって、投索手段が増え、救助者を発見する確率を上げていくことができます。
今回集まったドローンパイロットの4名は、みな、日常的にビジネスとしてドローンに関わっているメンバーです。ドローンの飛ばし方も、考え方もそれぞれ違っています。各人が意見を出し合い、捜索時のオペレーションをブラッシュアップして、その細目をマニュアル化することが1日目の目的です。
「捜索のときの持ち物ってなにが必要かな? 」
「バッテリーはいくつ持っていってる ?」
「ポータブル電源も必要だよね」
ドローンでの捜索では数キロ先までドローンを飛ばし、墜落をさせることなく、必ず帰着させなければなりません。バッテリーに余裕を持たせるため、1回の捜索で10数分ほどしか飛ばすことができません。継続して捜索を続けるために多数のバッテリーを持つだけではなく、追加で充電ができるようにポータブル電源も持っていたほうがいいという判断ですね。
このミーティング時に何度も話に出ていたのは、今後、日本各地のいかなる場所でも、すぐにドローンチームが駆けつけ、迅速かつ正確に捜索をし、必ず無事に遭難者を発見できるようにしたい、ということです。統一されたオペレーションマニュアルを作成し、それを活用することで、オペレーター個々の練度の向上、そして全国のどのエリアでも安定した捜索技術を提供することができるようになるでしょう。そして、ココヘリ・ドローンチームの拡充にも繋げていくことが、目標のひとつでもあります。
2日目は、青空の広がる最高の天気に恵まれました。この日は初日に話し合ったマニュアルの内容を意識しながらの実地訓練です。ココヘリの発信機を捜索者に場所を知らせずにあえて山の中に設置し、それを麓からドローンを使って探し出すというもの。雪山ということで、遮るものがなく電波を受信しやすい環境ではありますが、どの程度の精度が出せるものなのでしょうか!?
ドローンパイロットのメンバーが機材の準備をしているあいだ、 ココヘリチームは山へ発信機を設置しに、白馬八方尾根スキー場へと向かいます。ロープウェーとリフトを乗り継ぎ、スキー場の上部へ。ひとつ目の発信機は標高1,700m付近に、ふたつ目の発信機はゲレンデのトップの1,800m付近に設置します。設置を終え、スキー場を下りて、ドローンの発進場所であるHakuba47ウィンタースポーツパークの駐車場へと向かいました。
ドローンの準備が完了したら、いよいよ捜索訓練の開始です。発進場所があるのは標高800m。発信機の設置箇所までは標高差にして約1,000m、距離は3kmほど。もちろん、ドローンパイロットはどこに発信機があるかは知りません。唯一わかっているのは「山の上」ということだけ。受信する電波の情報のみを頼りにして、ドローンを飛ばします。
ドローンを上空まで飛ばし、周囲を探索。ものの数分で電波を捕捉します。その後、旋回や移動を繰り返しながら、発信機の位置を絞り込んでいきます。
「電波強度が20、29……減ってきたので、ドローンを29の位置まで戻してください」
「ストップ。そこから前進してください」
「距離が2,020m......2,010m。減っていってます」
前進している途中でも、強度が弱くなってきたらその場でふたたび旋回し、強度の強い方へ前進。そんなことを繰り返しながら、少しずつ距離を縮めていきます。
1回目の捜索では距離が残り1,900mの地点まで飛ばして帰還。さらに2回目は、1回目に帰還した場所まで一気に進み、そこから電波捜索をして1,500mまで近づくことができました。最終到達点での座標を取得したら、残りの距離とドローンが向いている方角を頼りに、発信機があるであろう場所を推測します。それを実際の座標と比較をしてみると……なんと誤差は100〜200mほどでした。ドローンを2回、飛ばしましたが、詳細な位置を割り出すまでに数十分しか掛かっていません。
本来、遭難者の捜索はまったくどこにいるかわからず、行動を推測して探すしかないのですが、100mの距離まで特定することができるのは、捜索時の大いなる有意事項となるでしょう。
ドローンは航空法に関連して、地表から150m以上の高さを飛ばすことができません。飛ばすためには国土交通省への申請が必要となってくるのですが、遭難者の捜索依頼が来たときには、申請を出している暇などはありません。150m以下をつねに飛ばすとなると、尾根から谷を越えなければいけない場合、地形を沿うようにして上昇と下降を繰り返すことになってしまいます。
設置した発信機はふたつとも、迅速に、誤差わずかで見つけることができ、無事に捜索訓練が終了しました。今回、ドローンの捜索トレーニングに同行して驚いたことは、その距離や精度だけではなく、位置を特定するまでの “時間” です。地上部隊での捜索では何時間も掛かってしまうような広範囲を、ドローンはその機動性を活かし、数十分もあれば捜索し終えてしまいます。機動性の高いヘリと、小回りの利く地上部隊の両方の特性を持つのがドローンだともいえるでしょう。ドローンでの捜索にはあたらしい可能性が大いに秘められています。今後、ココヘリのドローンチームが拡充していくことによって、遭難者がより早急に、無事に発見される可能性が増えていくことでしょう。
(写真・構成・文=河津 慶祐)