【連載企画】COCOHELI STORIES 「いってきます」と「おかえりなさい」の間に。

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vol.49 松本さんはご夫婦ともに登山好き。今はお子さんが小さいため、週末は交代で山へ向かい、それぞれの山時間を大切にしています。そんな松本さんと山岳会仲間の方々の休日にお邪魔しました。

松本さんと山の出会いについて伺うと、「山に出会う前、私の生活の軸は完全に海で、高校生の頃にスキューバダイビングと船舶免許を取得しました。30歳までは、週末は海へ行くのが当たり前の生活でした。転機は30歳のとき同僚に誘われて行った雲取山。体力には自信があったのに、下山中に膝が笑って足が痛い……本当に悔しかったです。そこで中途半端にはできないと思い、海から山へ舵を切りました。その後は一人で登山する様になり、体力をつけるために同じ山に登るなどを繰り返し、自分の体力がついてきた事を実感していました。ただ冬山だけは自分の中でブレーキがかかりました。クライミングにも取り組むようになり、会社帰りにジムに通っていました。そんな中、ジムで出会った武井さんに、「ソロでやってきたけれど限界を感じる。どうしたらいいですか」と相談しました。そうしたら、「山岳会に入りなよ。うちに来ればいい」と、とてもシンプルな答えが返ってきて。その一言が大きな転機になりました」と松本さんは振り返ります。


山岳会へ所属した事で一気に景色が変わったといいます。「武井さんは当時60代で、私の父と同じ世代。毎週のように山に付き合ってくれました。山を教えてくれる人がいるという事が、どれほど大きいか。体力だけでなく、装備の選び方、判断の基準、危ない局面での考え方。山の技術など学んだ時間でした」とこれまで振り返る松本さん。松本さんは、のめりこみ易く、やるならとことんこだわる性格とのこと。その極端さがそのまま山での活動につながっていったそうです。「2013年に東京都山岳連盟で韓国遠征に参加した時に、救助隊に誘われたことが大きな転機になりました。そこからレスキュー技術を学び、今は遭難対策委員会にも所属しています。救助というと特別な技術が必要に思われがちですが、懸垂下降や引き上げも、マルチピッチクライミングをする人であれば普通に使う技術です。街中で怪我人がいたら助けるのと同じで、山の中でも目の前で起きたことに手を差し伸べるだけと思っています」と松本さん。

そんな松本さんが山へ行くときに最も重視しているのが登山計画書。「ルートや装備、天候などを事前に調べ、計画があってこそ、想定外の状況にも対応できる。登山届も必ず提出しています」と松本さん。登山届は自分自身の遭難だけではなく、他の人が遭難した時に同じ山域にいた人への聞き取りにも活用されるので、自分だけでなく他の登山者の助けになるそうです。今はスマートフォンのアプリからでも登山届が簡単に出せるので、もっと活用されるべきとおっしゃっていました。



もちろん、ビレイパートナーとの練習も欠かしません。「ビレイパートナーは命を預ける相手。信頼できる人でないと」と松本さん。お互いへの信頼があってこそ一緒に登れるそうです。「私がココヘリに共感しているのは、見つかる可能性が上がる事。遭難した場合は携帯電話から連絡、電波が届かない場合でも衛星回線を使って場所を通知ができますが、連絡できない場合もあります。例えばた動けない、携帯が壊れた、電源が切れた、落としたなどの時です。そのような時でも探してもらえる可能性があるのが重要だと思っています。たとえ最悪の結果でも、見つけてもらう事が重要です。行方不明になれば死亡宣告されるまでの7年間は家族が大変な思いをします。少しでも見つかる可能性を上げる、1%でも2%でもその価値は大きい。だから私は、ココヘリを見つかるためのお守りとして大切にしています」とおっしゃっていました。


最後に、これからの山との向き合い方について伺いました。「今は子どもも小さいので無理をせず、家庭・仕事・山を切り分けるのではなく、続けられる形を大切にしたい。山は極端な挑戦だけが価値ではなく、計画して備え、きちんと帰ってくる――その積み重ねが何より大切です」と話す松本さん。
その一歩一歩の積み重ねが、当たり前のようで、かけがえのない「帰る」をつくっている。ココヘリは、その当たり前を守るために、日々の備えとして、そして最後の砦として、静かに寄り添い続けます。
#ココヘリ