2024-01-26
捜索実績

ココヘリ シーズン レポート 2023年1~3月編

宮川 哲
編集者

山岳•アウトドア関連の出版社勤務を経て、フリーランスの編集者に。著書に『テントで山に登ってみよう』『ヤマケイ入門&ガイド テント山行』(ともに山と溪谷社)がある。

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目次

~単独行のリスク。そして雪山技術の再確認

 今回のシーズンレポートは、2023年の1月~3月の3ヶ月間を取り上げます。この季節は、いわゆる厳冬期。標高の高い山だったり、高緯度にある山では完全な雪山登山となり、相応の知識や技術を持たない限り、入山をするべきではありません。また、標高の低い山でも降雪に見舞われることも多い季節であり、しっかりとした装備を整える必要があります。

 いつも行き慣れたはずの山でも、登山道は雪に埋もれ、風雪は視界を奪ってしまうこともあるでしょう。日の出が遅く、日の入りも早い。つまり、日中の行動時間が短いことも、冬の山登りをむずかしくする要素となります。いつもの山だから、ほんの日帰りのつもりで……という気持ちでの入山はとても危険です。この季節は、気軽に入れる山などないと思っていたほうがいいでしょう。

夏道である木道は薄い雪に覆われ、その先の視界もない。予報では、この日の天候の回復はなさそう……ともなれば、ここで引き返す判断も必要なのかもしれません。雪山の状況は刻一刻と変わっていきます。この「現場での状況判断」は登山の大切な技術のひとつであり、それは無雪期のそれよりもよりシビアに要求されるでしょう。

1.データから見る遭難事案の傾向

 この3ヶ月間に、ココヘリへの通報があった件数は全部で14件でした。遭難事案の「発生域」はどこであったか、「通報者」がだれであったか、「通報の種類」は何であったかなど、今回もいままでのシーズンレポートと同じ指標で、各表やグラフをつくっています。まずは、こちらをご 覧ください。

ここに掲載した表、グラフは全部で6つ。内容は以下の通りです。

①発生域と日付(事案の発生した山域と日付を地図上に表示)

②通報者(ココヘリへ最初に通報した人が、遭難者とどんな関係にあるのかを示したも の)

③通報の種類(通報に至るおもな理由)

④パーティの人数(対象事案の入山時の人数)

⑤事故の発生原因(事故となってしまった原因)

⑥安否(事故の結果としての安否状況)

 まずは①の「発生域と日付」の地図を見てみましょう。それほど数が多いわけではないのですが、今回の傾向として挙げるとすれば、北海道の山での遭難事故が3件あったこと。全14件のうちの3件なので、2割強の件数となりますが、じつはこの1年の間で北海道での事案はこの3件しかありません。ペケレベツ岳(1,532m)、養老牛岳(846m)、無意根山(1,464m)と、それぞれ高山という標高ではありませんが、緯度の高い北海道でのこと、やはり低温と積雪による影響は大きいものと思われます。雪崩に巻き込まれてしまった案件もあり、残念ながら3件のうちの2件が「死亡」となってしまいました。また、長野県でも3件、群馬県では2件の事故がありました。このうち、前武尊での遭難は、スキー場を起点としたバックカントリーに関係するもの。新潟の神楽ヶ峰も スキー場を起点とする案件でしたが、こちらはバックカントリーというわけではなく、コースからの滑落という内容でした。

  もうひとつ特記しておきたいのは、東京の高尾山と兵庫の六甲山でも通報案件があったこと。1件は道迷い、もう1件は連絡不通でしたが、都市近郊の山でも油断は大敵です。日暮れが早く気温の低いこの季節は、ひとつ間違えれば大きな事故につながった可能性もあるでしょう。

  ②の通報者のグラフでは相変わらず家族からの連絡が多く、約43%となっていますが、今回は「現場」からの連絡も多くありました。登山者(本人)の29%と同行者21%からの連絡を合わせると、ちょうど50%となります。連絡の半数が山の現場からだったということになります。これは他の季節よりも割合が多く、入山する当事者たちも雪山でのリスクを認識して、ピンチに陥ったときにすぐに連絡を入れた結果でしょう。冬場の日暮れは早く、時間的な猶予があまりないのも影響しているのかもしれません。

2.「単独」71.5%の衝撃

 グラフから読み取れることとして、さらに注目しておきたいのが④のパーティの人数です。「単独」が驚きの71.5%となっています。雪山なのになぜ? と、なおさらの驚きしか ありませんが、雪山での単独行は無謀としかいいようがありません。雪山での単身での遭 難は、限りなく「死」に近く、それだけでリスクを上げてしまっています。

  昨今の登山者の動向から見ても、単独行をなくすことはできないかもしれません。ひとりで登るのが気楽でいいから、登山仲間が見つけられない、自分の鍛錬のためなど、いろいろな理由があるのもわかります。もちろん、相応のトレーニングを積んで、経験もあり、自分の責任とともに山へと向かっているとは思いますが、救助をする側からすれば、 山登りはひとりですべきではないと思っています。とくに雪山では。

  あまりしたくはない想像ですが、たとえば、雪山にひとりで入ったとします。山頂までは無事にたどり着いたものの、帰り道で足を滑らせてケガをしてしまった。どうやら歩けなさそうだ……とすれば、やはりレスキューに頼るしかなくなってしまいます。もしもその場が電話のつながらないエリアであれば万事休すです。気温が低く、風が吹いていれば、あっというまに低体温に陥ってしまうかもしれません。ビバークの穴を掘るにしても、その知識も道具もしっかりと揃っているのかどうか。仲間がいれば、まだやれることはあるかもしれませんが、ひとりではどうにもなりません。

  また連絡がついたとしても、雪深い山中であれば、レスキューをする側にもリスクがあります。天候が悪いことも多く、ヘリが飛べない状況も多くなるでしょう。雪崩、ホワイトアウト、雪目に凍傷、雪庇踏み抜きの危険もあります。やはり、雪山はシビアなものです。ひとりでしか山に入れないタイミングなのであれば、それは計画自体を断念するべきでしょう。もちろん、無雪期でもリスクはありますが、積雪期はまったく別物であると、今一度の認識をしてもらいたいと思います。

大きく発達した雪庇を意識しながら稜線を歩く。実際に伯耆大山にある稜線のルートですが、「歩く」という行為にも相応の知識と技術が必要となるのが雪山登山です。もしもここで雪庇を踏み抜いてしまっても、単独行であれば、誰にも気がついてもらえない可能性もあります。ひとりであることは、それだけでもリスクとなり得ます。

3.バックカントリー入山者への対策

 1.の項目でも書きましたが、今回は1件、バックカントリーでの遭難事案が起こっています。2月16日に群馬県の前武尊(2,039m)でのことですが、もう少し詳しく状況を見てみましょう。

  ココヘリへの通報は同行者でした。オグナほたかスキー場に来ていた仲間がバックカントリーに出て単独で前武尊まで行くとのことで、スキー場の駐車場で待ち合わせをしていたものの、時間になっても下りてこないというものでした。実際には、相談を受けたスキー場のスタッフがココヘリと警察への連絡を指示しましたが、この日は天候も悪く、またすでに暗くなり始めていたこともあり、捜索は断念。翌朝からの捜索が決まりました。

  捜索当日、地元警察の山岳捜索救助隊が地上から入山し、同時に防災ヘリやココヘリのヘリも飛びました。ココヘリの受信機である程度の位置確認ができ、より正確なサーチの準備していたときでした。もう午後になってからですが、遭難者本人から警察への連絡が入ります。自身で山頂まで登り返し、電波の入ったところで家族と警察への連絡を入れたということで、最終的には地上隊により救助ができました。本人はかなり山には慣れていたようで、前日の16時くらいにはもうビバークすることを決めていたとか。結果的には、事なきを得て無事に戻って来ることができましたが、これも状況によっては悲惨な事故につながってしまったかもしれません。

  登山と同様にバックカントリーに入る行為は、どこまでも自己責任の部分が大きくはあるのですが、じつはオグナほたかスキー場ではある仕掛けをしていました。ちょうどこのシーズンからバックカントリー入山者への「ココヘリ携帯の義務化」をルールとして導入しています。スキー場のチケット売り場にバックカントリー専用のカウンターをつくり、その場での登山届の提出とココヘリのレンタルを実施。今回の事案でも、ここで提出した登山届などから警察や関係者への詳細な情報の共有ができていました。これは、ココヘリ導入による成功例のひとつと言えるかもしれません。

  オグナほたかスキー場のココヘリ導入については、22-23年シーズン終了のタイミングで、所長の須藤和道さんに詳しくお話を伺っています。過去の記事になりますが、2月の事故の様子も書かれていますので、以下も一読してもらえればと思います。

ココヘリ携帯の義務化開始からワンシーズンを終えて。

 オグナほたかスキー場だけでなく、近くの川場スキー場でもココヘリ携帯の義務化が導入されています。こちらは、オグナよりも4年前から実施しており、冬季の上州武尊への登山者がその対象となっていました。登山でもバックカントリーでも、雪山での行動時にはココヘリを携帯する。こういった動きは、北関東だけにとどまらず、月山や大雪山など全国にも広がりつつあり、ココヘリ携帯の意義をより多くの人に伝えることができています。ココヘリを導入している施設のリストは以下よりアクセスできますので、こちらも一 度、確認をしてみてください。

ココヘリ導入施設/大会

4.雪山登山の技術を習得する大切さ

 雪山はやはり無雪期の山のように、だれもが入れる山ではありません。雪山の知識と技術をしっかりと備えていないなら、入山すべきではないのかもしれません。ただ、残念なことに、経験不足、技術不足による雪山での遭難事故は数多く起こっているのが事実です。もちろん、相応の技術があったとしても対応できなかった場合もあるでしょう。どんなに経験深い登山者でも事故に遭ってしまうことはありますが、雪山とはそれほどに怖いところだと認識できているでしょうか。

  これはバックカントリーに入る場合も同じです。スキー場は管理された場所ですが、一度、コースから出てしまえば、そこは雪山です。雪山登山の知識なく、パウダーが楽しそうだからという理由だけで入ってしまうなら、それは自殺行為にも等しいことなのかもしれません。

  たとえば経験が浅くとも、山の天気も雪の状態も安定していれば、登れてしまう、または滑れてしまうことがあるかもしれません。ただ、それは、運がよかっただけなのかもしれません。とてつもなくうつくしい雪山の景色は、天候が一転すれば、すべての要素が牙を剥いて襲いかかってきます。吹き付けてくる風と低温は、容赦なく体温を奪い、体力を削ぎ、行動の自由をなくしてしまいます。舞い上がる雪は視界を白一色に染め、行くべき方向を示してはくれません。雪崩に遭遇してしまえば、一刻を争うピンチに陥ってしまうでしょう。

 そんな危険に遭わないためにはどうすべきなのか。まずは「行動」の基本を学ぶべきでしょう。情報を収集する能力、その情報から何を判断できるのか。登頂をあきらめる、この時点で引き返す、山の計画自体を延期する……これもとても大切な山の技術です。こういった雪山の知識は、一朝一夕には習得することはできません。やはり、最初は経験者のもとで学び、何度も何度も雪山に行くべきでしょう。また、山岳会の講習や登山学校への参加、関連本を読みあさるなど、あらゆる機会を利用しながら、頭と身体に覚え込ませるしかありません。技術不足は自分の問題である、と思えるかどうか。その学ぶ姿勢を大切にしてもらいたいと思います。

近藤謙司さん、今井 晋さん、天野和明さんの3人の国際山岳ガイドが監修した『ココヘリ安全登山学校の教科書』最新刊・雪山編が11月に刊行となっています。ココヘリ会員は「マイページ」からWEB版の閲覧(無料)が可能です。また、冊子版(税込1,480円)の販売はAJ MALLにて。

5.遭難のリスクを減らすために学び、備えるココヘリ――安全登山学校

 雪山登山のリスクを減らすには、やはり学びが大切です。ココヘリでは「山での遭難を起こさないために、万が一遭難 してしまっても……生きて下山するために」、ひとりでも多くの人たちが、正しい登山の知識を学べる場として「ココヘリ安全登山学校」を設立しています。設立のきっかけは、2017年の3月に那須岳で高校生たちが巻き込まれてしまった事故。その検証のなかで日本山岳ガイド協会の理事であり、その立場にあった近藤謙司さんは「高校生たちが山の正しい知識を学べる場が少ない」ことに危機感を抱き、対策の一環として、ココヘリといっしょにWEB上での「高校生のための安全登山講習会」を実施しました。

  この講習会が始まったのは2020年の春のこと。以来、21年までの2年間で11回まで回数を重ね、山登りの基本から雪山登山、レスキューの技術や山の天気といったテーマにまで幅を広げ、安全登山に対する基本的な考え方をていねいに紹介しています。そのWEB講習会をベースとして編集されたのが、前出の『ココヘリ安全登山学校の教科書』です。

  ココヘリ安全登山学校は、WEB上や机上での事前講習会を実施し、また実際に山で登山学校を開催することで、受講者たちが「繰り返し体験して身につける 」ことができるようにとカリキュラムを組んでいますが、『ココヘリ安全登山学校の教科書』はそのための教則本であり、まさしく教科書です。現在、『基礎編』『レスキュー編』『雪山編』の3冊がWEB版と冊子版で、『山での感染症対策編』がWEB版にて公開されています。

    雪山に関する講習会も数多く開催されていますので、ぜひとも積極的に登山学校に参加してください。ひとつひとつの積み重ねが安全登山への近道です。雪山登山であれば、なおさらじっくりと学びたいもの。しっかりと学んで、この冬も安全、安心の山登りを楽しんでください。

ココヘリ安全登山学校

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