2024-03-13
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持っているだけでは意味がない!

13(トザン)日は【AJ MALLの日】特集|安全登山のための道具術

宮川 哲
編集者

山岳•アウトドア関連の出版社勤務を経て、フリーランスの編集者に。著書に『テントで山に登ってみよう』『ヤマケイ入門&ガイド テント山行』(ともに山と溪谷社)がある。

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 ツェルト(Zelt)とは、ドイツ語で「テント」を指す言葉です。もともとはヨーロッパ生まれの非常用装備のひとつで、いわゆる簡易テントのことですが、むかしから日本の山岳シーンで積極的に使われてきました。そんな経緯もあり、日本国内でさまざまな工夫がなされてきた独特の装備でもあります。いまではむしろ、海外から日本のツェルトが「シングルグルウォールのビバーク用シェルター」として、注目されるようにもなっています。

 テントとは何がちがうのかといえば、ツェルトには「底」がありません。ペラペラな布地を三角テント型に裁断・縫製したもので、底の部分はふたつに分割されています。そこに取り付けられたヒモを結び合わせれば「床」にすることはできますが、この点はテントとの大きなちがいともいえるでしょう。また、たいていのモデルにはポールなどの骨組みもありません。なかには、より快適な空間をつくるためにポールが装備できるようなものもありますが、基本的には細引きを使って木に結びつけたり、トレッキングポールや木の枝を使って支柱にしたりして、テントのようなしつらえをつくることになります。

 または、ポンチョのように頭からかぶって身体全体をすっぽりと覆い、体温を逃さず、体力を温存するために使います。これもツェルトの大きな特徴のひとつで、ただかぶるだけでもOKという点で、強い風や低温からすばやく逃れられる優れたアイテムだといえるでしょう。

自分の山行スタイルにあったサイズを選ぶ

 ツェルトにもさまざまな種類やサイズがあります。1人用でかぶって使う前提でつくられたモデルや、ふたりで使っても十分な広さを得られるものもあります。より快適な空間を確保したいのなら、やはり大きめのサイズを選ぶ方がいいとは思いますが、ツェルトはあくまでも「もしものとき」に使うもの。あまりにオーバースペックなものは、ただ単に装備が重くなってしまうだけなので注意が必要です。本当に快適な空間を得たいのであれば、テントを購入した方がいいですよね。

 もちろん、ツェルトをテントの代わりに使いたいというライトウェイト志向の登山者であれば、話は別ですが。ただし、その場合でも知っておくべきポイントがあります。ツェルトの多くはナイロン素材を使っていて防水や撥水のコーティングをされていますが、冒頭にも少し触れたとおり、シングルウォールのビバーク用シェルターという位置付けですので、内部に結露が発生しやすかったり、底が割れているだけに防水性が劣ってしまう場合もあります。やはり、テントのような快適さを求めるべきではありません。

 さて、具体的なサイズ選びについて。1人用の小さなモデルもありますが、初めて購入するのであれば、少しだけ大きめを選んだ方がベターです。必要以上に空間を大きくすることはありませんが、ビバーク時に一晩中、足を抱えて過ごすのはかなり大変なので、自分の足が伸ばせるくらいのサイズがいいでしょう。また、ベンチレーターのサイズが大きく、頭を出せるようになっているものの方が汎用性が高く、使いやすいですね。ココヘリでも、アライテントの別注モデルとしてちょうどいいサイズのツェルトを発表しています。

 ツェルトは、ひとりにひとつ必要なわけではありません。ふたり以上で使えるサイズであれば、2人パーティにひとつ装備していれば、緊急時にも十分に対応が可能です。もちろん、パーティが大きくなるなら、それなりの数は揃えておいた方が無難です。

ミニコラム:アライテントの別注モデル

普段から積極的に使いたいアイテム

 ツェルトは緊急時以外は使ってはいけない、というギアではありません。むしろ、普段使いを心掛けておけば、いざというときにも慌てることなくアドバンテージが得られるでしょう。たとえば、雪の中でご飯食べようというときには、頭からかぶっただけでもあたたかさを確保することができます。ちょっとした休憩時に羽織るだけでもいい。もちろん、時間的な余裕があるなら、木に結びつけてテント型に立ててみたり、屋根がわりにすることもできます。こんなふうに、積極的に使ってみることをおすすめします。

 でも実際には、ツェルトを使ったことがある人は多くないのでは? 緊急用の装備として揃えてはみたけれど、袋から出したことがない人がいるなんて話も聞いたことがあります。ピンチに陥ったときに初めて袋から出すなんてことのないように、やはり使い方に慣れておくことも大切です。予備の細引きやペグなども事前に用意しておけば、よりすばやくツェルトを設営することもできますね。

 さて、ツェルトをかぶって使うときは、ツバの広い帽子をかぶったり、ツェルトの中で傘を広げたりすれば、より大きな空間をつくることが可能です。もしものときには、この空間が安心感にもつながっていくはずです。ツェルトに包まれていることで心を落ち着かせることもでき、身体をしっかりと休ませることで体力を温存できることでしょう。ビバーク時の濡れは体力を奪っていくので、できるだけこの空間を確保して、身体を濡らさない工夫をしてください。

ミニコラム:予備の細引きやペグなども事前に用意

いざ、ビバークとなってしまったら

 ツェルトの使い方は何にもむずかしいことはありません。ビバークとなってしまったときにいちばん大事なのは、ツェルトを使う場所を選ぶことです。風の通り道だったり、地面が濡れている場所だったり、落石の危険のあるような場所だったりを避けるようにしましょう。安全な場所がみつかれば、そこがビバーク地となります。まずは、その場でツェルトを頭からかぶっているだけでもかまいません。かぶることがいちばん単純ですし、体温を逃さずに体力を温存することがこのアイテムを使う意味なので、それだけでも十分です。

 ただ、気持ち的にも時間的にも余裕があるようなら、細引きとトレッキングポールや小枝を使って、空間をつくってもいい。そこにバーナーなどの火元があれば、なおさらいいですね。たったそれだけでも、ツェルトの中は驚くほどあたたかくなります。ペグがあればとても便利ですが、ツェルトはそもそもが非常用に使うものなので、小枝で代用ができるなら、現地調達でも問題はありません。

 木立を使ってツェルトを立てるときは、ツェルトの天辺に設けられたループに細引きを結びつけて使います。左右ともに同じ高さで細引きをピンと張り、ツェルトの底辺の四隅にあるループを小枝やペグで固定します。そうすれば、簡易な三角テントのできあがりです。ツェルトの中に入って分割されている底のヒモを結びつければ、より快適になるでしょう。もし、周りにちょうどよい木立がないなら、トレッキングポールを支柱代わりに使うこともできます。左の写真のように、ツェルト天辺のループをトレッキングポールに括り付け、細引きを使ってテンションを掛ければ自立します。タープのポールを立てるときと同じ要領ですね。

現場での使いやすさを最優先に

 ツェルトはそもそもがエマージェンシーギアに分類されるため、各メーカーとも「軽く」「小さく」「コンパクト」なモデルをつくっています。それゆえか、ツェルトを収納する袋はとても小さい。一度、袋から出したら、もう自分ではしまえなくなってしまうのではないかと思うのも無理はありません。もちろん、パッキングには便利なサイズではあるのですが、実際に使ってみると、やはりしまい込むときにはひと苦労してしまいます。

 この袋、別に少し大きなものに差し替えてしまっても問題はありません。むしろ、現場で使いやすい方がいいですから、自分で持っているスタッフバッグなどに入れ替えてしまった方がスムーズです。たとえば、大きめの袋であれば、冬場にグローブをしたままでも扱いやすいと思います。またツェルトを使いやすくするために、事前に細引きを取り付けておいたり、ペグなど揃えておくとなると、もともとの収納袋には入れられるはずもありません。こうしたツェルト用具一式をまとめて入れておく袋をつくっておけば、それこそ緊急時にもすぐに対応ができるようになるでしょう。ごく普通のスタッフバッグを用意しておけばいいだけです。参考までに、下の写真の袋は7ℓサイズのスタッフバッグです。ココヘリオリジナルツェルトに5mの細引きが2本、アルミペグが4本入っています。

 このように、自分なりの工夫をしてみるのも大切なこと。とくにツェルトはもしものときに役立つアイテムだけに、普段から使い慣れて、自分なりの使い方を「事前に」覚えておいた方がベターです。ぜひ、積極的にトライしてみてください。

(文=宮川 哲 写真=岡野朋之)

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